菅首相が土壇場になって「ストレステスト」が終わるまで再稼働させないと言い出したことで、原発問題は末期的状況になってきた。これは首相が浜岡原発の停止を「要請」した2ヶ月前に河野太郎氏が提案したことで、その時やっていればよかったが、今からやると真夏のピークに間に合わない。

この騒動に隠れて注目されないが、東電を救済する「原子力損害賠償支援機構法案」も明日、衆議院で審議入りする予定だ。先日、日経CNBCの番組で、私が「東電は会社更生法で処理すべきだ」と言ったら、あるアナリストに「東電の社債がデフォルトになったら、社債市場が崩壊して日本経済に大ダメージになる」と反論された。そうだろうか。

念のためマーケット関係者にきいてみると、「その人は固有リスク(idiosyncratic risk)という言葉を知らないね」と一笑に付された。東電が実質的に倒産していることは誰でも知っているので、デフォルトになってもマーケットは驚かない。原発事故の賠償は東電だけの固有リスクなので、デフォルトしても他の社債には影響しない。むしろ東電の債務を分担させられるリスクで他の電力会社の社債金利が上がっているという。

これは原発についても同じである。福島第一の事故原因は、くわしいことは事故調の調査結果を待たなければならないとしても、概要はわかっている。決定的な原因は、予備電源が津波で浸水して動かず、そのバックアップが機能しなかったことだ。同時に津波を受けた福島第二や女川は安全に停止したので、電源の欠陥は福島第一の固有リスクである。

他の原発についても、福島事故で判明した問題の対策は取られたので、同じタイプの事故が再発することはありえない。他の原因で事故が起こることはありうるが、これは原発全体のシステマティックリスクであり、今回の事故で高まったわけではない。したがって福島事故の対策が施されて定期検査も終わった他の原発を再稼働しても、リスクは変わらない。きわめて簡単な理屈だと思うが、菅首相には理解できないのだろうか。