このごろ同じような原稿の注文とインタビューが続いて(ほとんどは断った)、いい加減うんざりしてきたので、ここで今まで私の述べてきたことを日付順にまとめて、この話題には一区切りつけたい。週刊誌のみなさんは、これを私のコメントとして引用していただいて結構です(週刊誌の取材には原則として応じない)。
だから本質的な問題は、原発の代替エネルギーがあるのかということだ。逆にいうと、原発より安いエネルギーがあるなら、安全だろうとなかろうと原発は必要ない。コストでは(少なくとも短期的には)天然ガスが有利なので、残る問題はCO2だけだ。この点では原子力が優等生だが、「温室効果ガスを25%削減する」という国際公約さえ放棄すれば、新設する発電所は天然ガスに転換することが賢明だと思う。
- 炉心溶融は初期の段階で予想されていた:3月12日の記事で、私は官邸の資料の「燃料溶融」という言葉に注意をうながし、炉心が溶けているとすれば事態は深刻だと指摘した。3月14日の記事では、枝野官房長官が「炉心溶融の可能性」に言及したことを紹介し、不用意にこの言葉を使うと混乱すると警告した。
- 首都圏への影響はない:3月17日のニューズウィークで、福島事故はチェルノブイリのように「死の灰」が広範囲にまき散らされる大災害にはならないと予想した。したがって首都圏の人々が心配することはない。
- 原子炉の耐震性は証明された:3月19日の「アゴラ」で書いたように、1000年に1度の大地震でも40年前のオンボロ原子炉が緊急停止し、配管も破断しなかった。この点で原子炉本体の耐震性は確かめられたので、今回の事故の原因となった予備電源などを改善すれば原発のリスクは極小化できよう。
- 東電は破綻処理すべきだ:3月23日の記事では、東電を救済する特別立法に反対し、法的に破綻処理すべきだと論じた。ただ5月25日のJBpressでも書いたように、国の賠償責任もまぬがれないので、東電だけをスケープゴートにして政府が逃げることは許されない。
- 原発は火力より相対的には安全だ:3月31日の記事では、石炭火力による死者が原発よりはるかに多いというWHOの統計を紹介し、死亡率を基準にすると原子力は火力より安全なエネルギーだと指摘した。
- 最大の問題は電力会社の地域独占:4月6日のJBpressでは、原発が集中立地していることによるリスクを指摘し、その背景にある地域独占を是正するために発送電の分離が必要だと主張した。これは資源の有効利用やイノベーションを促進するためにも重要だ。
- 原子力の研究開発は必要:4月21日の記事で紹介したビル・ゲイツの意見に私は賛成だ。原子力は相対的には安全で環境負荷も小さく、イノベーションの余地がもっとも大きい。当面は日本で原発を新設することは無理だろうが、運転は止めるべきではなく、研究開発は続けたほうがいい。
- 放射線の影響は誇張されている:4月26日の記事でも書いたように、200mSv以下の微量な放射線が人体に与える影響は実証されていない。発癌性という基準では、喫煙のほうがはるかに危険だ。癌を減らすには、脱原発よりタバコを禁止するほうが効果的である。
- 「自然エネルギー」は原発の代わりにはならない:4月28日のニューズウィークでも書いたように、再生可能エネルギーを推進することには賛成だが、それが原子力の代わりになるというのは幻想だ。それは向こう20年は補助金なしで自立できないエネルギーであり、電力コストを上げる要因になる。
- 原発に代わるエネルギーは天然ガス:4月30日の記事で書いたように、原子力の欠点は安全性より経済性である。コストだけでいえば石炭が有利だが、大気汚染やCO2などを勘案すると天然ガスが総合的に有利だろう。埋蔵量もシェールガスは200年近くあり、問題ない。
- 放射性廃棄物の問題は解決できる:5月3日の「アゴラ」に書いたように、放射性廃棄物の問題は、技術的には解決可能である。経産省もモンゴルで進めている。最大の障害は政治的(感情的)な反対だ。
- 炉心溶融は致命的な事故ではない:5月17日の「アゴラ」に書いたように、福島第一の炉心は1日で溶融していたが、それによって圧力容器が破壊される最悪の事故は起こらなかった。だから事故の重大性を「炉心溶融」で語るのはミスリーディングで、圧力容器や格納容器の状態を基準にすべきだ。
だから本質的な問題は、原発の代替エネルギーがあるのかということだ。逆にいうと、原発より安いエネルギーがあるなら、安全だろうとなかろうと原発は必要ない。コストでは(少なくとも短期的には)天然ガスが有利なので、残る問題はCO2だけだ。この点では原子力が優等生だが、「温室効果ガスを25%削減する」という国際公約さえ放棄すれば、新設する発電所は天然ガスに転換することが賢明だと思う。
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