きょうの閣僚会議で決まるはずだった東電救済案が、首相の判断で先送りになった。首相は「賠償スキームについては、決して東京電力の救済ではない。被害者の皆さんに、一日も早く、救済がきちんと実行されるようにという観点で、この間の経緯をお話いただいた」と語っている。東電救済という批判がよほど気になったのだろう。

今回のスキームは正確にいうと、東電の株主(および貸し手)の救済である。ネット世論調査でも「東電の株主、債権者も負担を負うべきですか?」という質問に「負う必要はない」と答えた人は3.8%しかいない。このまま強行したら、国会では野党が反対に回り、電力会社のロビー活動で大混乱になるだろう。これが裁判所で行なわれる法的整理と行政の裁量による任意整理の違いである。

被災者の補償は数兆円規模といわれるが、東電の純資産(資本+利益剰余金)は3兆円あるので、会社更生法で破綻処理すれば、これが賠償の原資になる。もう一つの方法は、裁判所が債務を圧縮することだ。社債は4兆5000億円、長期債務は3兆5000億円あるので、法的整理を行なえば債権者の負担で損害賠償ができる。

もちろん東電の資産は発電設備などを含むので、すべて売却するわけには行かないが、東電を分割すればかなり売却できる。実際の会社整理では、社債や長期債務をすべてカットするわけにはいかないが、100%減資して純資産を売却し、社債と長期債務を圧縮すれば、電気代を上げないで株主と債権者だけの負担で賠償をファイナンスできる可能性がある。

こうした選択肢を検討しないで、官僚主導のスキームで東電救済を決めると、国会で野党に「電力利用者にツケを回すものだ」と追及されて行き詰まるだろう。党内の作業チームでも「このスキームの特別立法が衆参の国会議論で持つのか」という点に論議が集まったようだ。少なくとも電気代を上げないで賠償できる可能性がある限り、その議論を尽くしてからでないと国民の理解は得られない。