ビル・ゲイツのWiredビジネス会議での発言が話題になっている。「福島事故があっても原発は火力より安全だ」という話が注目されているが、本題はエネルギー産業のイノベーションだ。彼は「原子力にはほとんどイノベーションがなかった。それがこの産業の魅力だ」という。

電力産業はこの数十年、地域独占と規制に守られて、古い技術がいまだに残っている。福島の悲劇は、40年前の「第2世代」の原子炉を延命していたことで、現在の主流である第3世代の原子炉では、受動的安全装置によって福島のような事故は(設計上は)起こりえない。第4世代が、彼の投資しているテラパワーなどの軽水炉と異なる設計思想である。まだ開発段階だが、主な技術として次のようなものがある:このような新しい設計の原子炉の特徴は、閉鎖系燃料サイクルになっていることだ。これは高速増殖炉などと同じで、使用ずみ核燃料を燃料として使用することによって核廃棄物を減らすという考え方である。もちろん実際には「もんじゅ」のように行き詰まってしまうリスクも大きいが、リターンも大きい。

ITの世界では、インターネットによって大きなイノベーションが実現したが、電力会社は昔の電話会社のように古い経営者が古い技術を使っている。「エネルギー産業にはムーアの法則がないのでITのようなイノベーションは起こらない」というが、原子力のエネルギー効率は石炭の数百万倍である。それが石炭と同じぐらいの発電単価しか実現していないのは、非常に大きなイノベーションの余地があるということだ。

送電網を電力会社から分離してベンチャー企業に開放すれば、大きなビジネスチャンスが生まれるだろう。もちろん新しいエネルギーは原子力だけではない。太陽光や風力も、補助金に頼らないで競争によって成長すべきだ。ただしゲイツは、こうした再生可能エネルギーは「キュート」だが高価で、金持ちが大邸宅の屋根に太陽パネルを張るのはいいが、一般的なエネルギー源としては困難だろうという。スマートグリッドにも否定的だ。

しかし重要なのは、規制改革を行なえば大きなイノベーションの可能性があるということだ。今回の震災でよかったことはほとんどないが、それがエネルギー産業の成長をもたらすとすれば、多くの犠牲も少しは報われよう。19日のアゴラ起業塾では、こうしたビジネスチャンスがどこにあるかを考えたい。