わかりきったことを繰り返すのは気が進まないが、「原発は子孫まで遺伝的な障害を残す」とかいうデマを流布させている人がいるので、基本的なことを確認しておく(高校の生物学をちゃんと勉強した人は読まなくてよい)。

「放射線で遺伝子が壊れるので、原発事故の影響は永遠に遺伝で受け継がれる」などと言う人がいるが、放射線によって起こる癌は個体変異であり、遺伝することはありえない。Geneを「遺伝子」と訳すのは間違いで、DNAの通常の機能は(蛋白質を複製して)細胞分裂をコントロールすることだ。親から子に形質を遺伝させる減数分裂は、生殖細胞で起こる特殊なケースである。

理論的には、生殖細胞が放射線で損傷して突然変異を起こす可能性があるが、このような細胞は受精卵として成長せず、流産や死産するのが普通である。それが遺伝病として子供に受け継がれる確率もゼロとはいえないが、近藤宗平氏は広島・長崎の被爆者4万人の調査をもとにして、放射線による遺伝病の発病率は統計的に有意ではなく、放射線の遺伝的影響は心配無用と結論している。

ところが「福島第一原発の近所に住んでいた女性から奇形児が産まれる」といったデマが流され、縁談が破談になるとか妊娠中絶が行なわれるといった話が出ている。科学的根拠のない微量の放射線の影響を誇大に騒いでいる自称ジャーナリストは、風評被害ばかりでなく差別を生み出し、家庭を破壊していることに気づくべきだ。

孫正義氏は「国際標準」で情報を開示せよとかわけのわからないことを言っているが、マイクロシーベルトのレベルの放射線に国際標準もへったくれもない。人体に無害な全国のデータの開示より、いい加減な知識で「放射能は危ない」というデマを流さないことが一番だ。放射能による最大の被害は、不安と風評だからである。