福島第一原発の事故処理をめぐって激しい情報戦が展開されている。まず問題は原子力損害賠償法の「天災地変」の規定を適用して国が賠償するかどうかだが、無理があるという意見が多いようだ。福島第二も女川も問題がないのに、福島第一だけで事故が起きたのは、東電の設計に不備があったと考えざるをえない。東電は「国の安全基準に従った」と主張し、経団連の米倉会長まで「国の責任だ」とオール財界で応援しているが、霞ヶ関は冷たい。

重要なのは、今回の損害(廃炉と賠償)を東電が自力で処理できるかどうかである。事故で退避した10万人に各300万円を払うとしても3000億円、農畜産物の被害を入れると1兆円を上回る。廃炉のコストも大きく、1基4000億円ともいわれるので、1~4号機の合計で1兆6000億円。ざっくり考えてトータルで3兆円は下らないだろう。

しかし東電の純資産は2兆5000億円で、地域独占で本業は健全なので今後も料金収入が見込め、時間をかければ処理可能だ。昨年3月期の経常利益は2000億円だから、その15年分。廃炉は30年かかるといわれるが、この費用はコントロール可能なので、賠償だけなら1兆円台だろう。

もちろん短期的には資金繰りが逼迫するので、銀行のつなぎ融資や政府の債務保証が必要だが、経営が破綻したチッソとは違って、納税者の負担なしで処理することは可能だ。では誰が負担するのかというと、第一義的には東電の株主である。最終的には資本金(6800億円)を減資するしかない。それでだめなら、国の支援が必要になろう。

ただし、その方法論はいろいろある。霞ヶ関が考えているのは、福島原発を清算会社として切り離す案だ。これは東電と国の出資による特殊会社とし、賠償と廃炉が終わったら解散する。「新東電」は通常の事業をこれまで通り行なう。この場合、損失を電気料金に転嫁することも、法的には可能だ。電気料金は「原価+適正利潤」だからである。

他方、メディアに出回っている「政府原案」では、9電力の出資による「原子力賠償補償機構」をつくって東電を支援することになっている。これは90年代に不良債権処理で出てきた「奉加帳方式」だが、今回は無理だろう。受益者は東電だけで、他の電力会社が負担だけ分担するというのでは、「原子力村」もOKしないのではないか。

90年代の金融の経験からみると、東電を丸ごと残して国や同業者が支援するという処理スキームでは、廃炉や賠償などの後ろ向きの仕事が経営陣を圧倒して、本来業務がほとんど止まってしまう。これから電力業界は大きな改革が必要なので、たとえ東電が財務的に健全でも清算会社を分離し、現在の経営陣は全員そっちに移ってもらい、新会社は外部から若い経営者を入れるのがいいと思う。

これと合わせて出ているのが発送電の分離で、財界は「事故と関係ない」と否定しているが、霞ヶ関はこの機会に役所より強い電力会社の力をそごうとねらっている。地域独占をなくすことが事故の再発防止と安定供給に役立つという論理だが、逆に「9電力を2社に集約して国際競争力を高める」という案もある。

いずれにしても数兆円の損害は誰かが負担しなければならないが、それが東電の株主か納税者か消費者(電気代)かで経済効果は大きく違う。経済学者がちゃんとした提案をしないと、声の大きい火事場泥棒が大もうけすることになりかねない。

追記:「東電の財務状況についての評価が楽観的すぎる」というコメントをいただいたので、少し修正した。