自称保守主義者の中島岳志氏が、なぜか左翼系ウェブサイトに「原発に反対してきた理由」を書いている:
自動車は普遍的に事故を起こし続けます。日本だけでも年間約5000人の命が失われ、多数の負傷者が出続けています。[・・・]しかし、私たちは自動車や飛行機を放棄しません。それは、リスクの存在を前提として、そのリスクよりも利便性のほうが上回るという認識を共有しているからです。しかし、原発のリスクはそれらをはるかに上回ります。一旦事故が起こると(事故の規模にもよりますが)、相当程度の国土が汚染され・・・
内田樹氏と同じような思い込みが続くが、自動車のリスクを「年間5000人」と書くのなら、同じ基準で原発のリスクを比較しないと不公平だろう。日本の原発事故の死者は、これまでゼロである。2名の死者が出た東海村事故は核燃料加工施設だが、それを入れても年間0.04人。少なくとも「原発のリスクは自動車をはるかに上回る」とはいえない。

では「利便性」のほうはどうだろうか。WHO(世界保健機関)の統計によれば、次の図のように原子力は世界のエネルギーの5.9%を供給している。TWh(1兆ワット時)あたりの死者は、石炭火力の161人に対して原子力は0.04人である(ほとんどがチェルノブイリ事故の死者)。石炭や石油の死者は、主として採掘事故による直接被害で、大気汚染による死者(年間数万人と推定される)は含んでいない。少なくとも人命を基準にするかぎり、原子力は石油火力はもちろん、バイオ燃料より安全なのだ。

だからオバマ大統領のいうように、原子力はクリーンなエネルギーである。それが危険にみえるのは、マスコミが原発事故が珍しいので大きく報道するからにすぎない。このようなバイアスは、メディアが多くの読者を引きつけるためには当然だ。プロスペクト理論の教えるように、人々は絶対値ではなく変化率に反応するからである。

しかしリスク評価に必要なのは絶対値である。発癌性で考えても、タバコを1日1~9本吸い続けることによる生涯のリスクは、3.4シーベルト。原発作業員の被曝限度の14倍である。あなたが原発を恐れるなら、まずタバコをやめたほうがいい。