チャイナ・シンドローム コレクターズ・エディション [DVD]福島第一原発3号機と4号機の使用ずみ核燃料の冷却は、うまく行かないようだ。使用ずみ核燃料の放射能は核燃料よりはるかに高く、建屋が壊れて外気にさらされているので、これは原子炉より深刻な問題である。このまま水が抜けて再臨界が起こると火災が起き、高温の核廃棄物が周囲に飛散する事態も考えられる。これに乗じて、あちこちに終末論的なデマを売り込む人がいるが、ニューズウィークにも書いたように、チェルノブイリのような最悪の事故になることは考えられない。

現在の状況は軽水炉の事故としては想定内であり、その中でも最悪の事態(IAEAのレベル7)ではない。最悪の事故として想定されている「チャイナ・シンドローム」は、運転中の原発の冷却水が抜けて空だきになり、溶融した炉心が超高温になって炉内の水やコンクリートと反応して水蒸気爆発を起こし、圧力容器と格納容器を破壊して大量の「死の灰」が周囲に降り注ぐ事故で、映画にも描かれている。この映画はよくできており、いま見ると迫力があると思う。

チェルノブイリの事故は、黒鉛炉だがこの想定に近い。半径1000kmに放射性物質が届き、少なくとも数万人が癌で死亡したと考えられている。しかし福島第一の場合には、このタイプの事故はすでに避けられた。制御棒が挿入されて核反応は終わっており、5日以上冷却されているからだ。燃料が溶融して厚さ15cmの鋼鉄でできている圧力容器を破壊し、さらに格納容器も破壊することは考えにくい。格納容器の中には海水が満たされており、最悪の場合でもそこで止まるだろう。

原発の危険は核爆発ではなく、放射能汚染である。この点では、原子炉よりも使用ずみ核燃料の問題のほうが深刻だ。プールに保存されている核廃棄物は約200トンで、原子炉内の核物質より多く、その主要な成分であるプルトニウムの毒性は核燃料のウランよりはるかに高いからだ。さらにサイト内には6400本の使用ずみ核燃料が貯蔵されており、この冷却がうまく行かなくなると危険である。

使用ずみ核燃料で事故が起きた場合にどうなるかも想定されており、これは再処理工場の事故に近い。核廃棄物が過熱して火災が起こると、それによって放射性物質が拡散され、サイトの周辺が放射能で汚染される。今のところ使用ずみ核燃料プールの温度は100℃以下と推定されているので、それほど心配はないが、ここで核廃棄物が集まって再臨界を起こすと暴走して、大量の死の灰が炎に乗って立ち昇るおそれがある。

しかし以上のような最悪の事態が発生しても、人体に影響が出るのは原発から半径100km以内だろう。200km以上離れた東京にも放射性物質は飛んでくるが、人体に影響を及ぼすほどの量が飛来することは考えられない。政府の避難計画はレベル7も想定して立てられており、現状はレベル5である。「外人は逃げた」とか「政府は隠している」という疑心暗鬼があるようだが、被害想定ではレベル7事故が起こっても東京には避難勧告は出ない。警戒は必要だが、過度に心配することはない。