スティグリッツが、スタグフレーションという懐かしいタイトルのコラムを書いている。アメリカではまだインフレ率は低いが、イギリスでは3.7%になり、今年中に4.4%まで上がると予想されている(インフレ目標を設定しただけでは物価をコントロールできないのだ)。イングランド銀行のキング総裁は、NYタイムズに「過剰な金融緩和でスタグフレーションを起こした」と批判されている。

日本では「FRBやイングランド銀行は果敢にバランスシートをふくらませた。日銀もやれ」と勇ましいことをいう向きがあるが、FRBは3倍、イングランド銀行は4.5倍に資産を増やしても失業率は改善しない。起こったのは過剰流動性による商品価格の高騰である。「デフレ不況」などとデフレと不況を混同する人がいるが、デフレは不況の結果であって原因ではないので、結果を変えても原因は変わらない。

スタグフレーションといえば、私の学生のころの経済学の論争テーマだった。フリードマンが示したように、インフレが景気刺激の効果をもつのは、それが予想を超える場合に限られる。一定の率でインフレが続いているときは、物価も賃金も予想インフレ率に合わせて上がるので失業率は変わらず、長期的には自然失業率に落ち着く。

同様にデフレが景気を後退させるのは、物価が予想を下回るときだけだ。世の中には「物価が下がると消費が減る」とか意味不明なことをいう人がいるが、物価が下がると資産効果で実質所得は増えるので、消費は増える。投資判断も実質ベースで行なわれるので、一定率の(予想された)デフレは影響しない。

デフレが景気に悪影響をもたらすのは、人々が貨幣錯覚に陥っているときに限られる。物価が下がっているのに名目賃金が変わらないと、実質賃金が上がって企業経営が苦しくなる。名目金利が下がらないと、債務者は苦しくなる。しかし実際には、名目賃金も名目金利も下がっているので、実質的な悪影響は小さい。10年以上にわたってゆるやかなデフレが続いているので、人々の予想もそれに合わせて調整されているのだ。

むしろ今後、心配なのは日本もスタグフレーションに陥ることだ。長期金利は1.3%台に上がり、世界的なインフレ傾向の影響を受けている。インフレになると金利が上がり、財政の悪化や金融機関の経営悪化をもたらすリスクは大きいが、それで日本の低成長が解決することは考えられない。中国でも、不動産バブルに日本の資金が流れ込んでいるといわれている。これ以上、インフレ的な金融政策を続けることはリスクが大きい。