就活について求人・求職側の話をきいてみて特徴的なのは、誰もが今の状態に不満を抱いていることだ。学生は3・4年の生活がほとんど就活でつぶれることに疲労困憊しているし、企業は学生のエントリーシートや面接がマニュアル化して、ユニークな人材を採れないことに悩んでいる。

誰でも考えるのは、日本以外の国のように新卒一括採用をやめて、中途採用も転職も自由にすればいいということだが、これはむずかしい。日本の大企業のホワイトカラーの転職率は5%程度ときわめて低く、社内の出世競争に敗れた人が多い。質量ともに労働力が新卒に極端に片寄っているので、ここで採らないと優秀な人材が採れないのだ。

流動固定
流動 a  0
固定 0  b

これはゲーム理論で考えると、上のような協調ゲームになっていることを意味する(ペイオフは対称とする)。a>b>0とすると、現在のような固定的な労働市場(b)よりも普通の流動的な労働市場(a)のほうが望ましいが、自社だけ中途採用してもいい人材を採れない(0)。この状態では、bから出発すると全員がbを選ぶことがナッシュ均衡になるので、解雇規制を変えても何も変わらない。

ただし確率的な進化ゲームを考え、人々がランダムに出会うとするとペイオフの高いaが選ばれるので、これをリスク支配戦略と呼ぶ。人々がbにトラップされていると出会う相手はすべて固定的な雇用慣行を採用しているが、十分高い確率で突然変異が起こると、中途採用で利益を得ることができる。一般的には、相手がリスク支配的な戦略aをとる確率pが

 p>b/(a+b)

であれば、リスク支配戦略が唯一の長期的均衡となる(Kandori-Mailath-Rob)。日本的雇用慣行のメリットbが低下すれば、普通の雇用慣行aに移るために必要な確率pが低くなるのだ。

だから重要なのは解雇規制よりも、企業が中途採用で優秀な突然変異に出会う確率を増やすことだ。このためには、労働者が転職して有利な就職先を見つける確率を高める必要がある。両者は鶏と卵の関係になっているが、長期雇用によるレントbが下がれば必要な突然変異の確率pは下がる。年功賃金はかなりフラットになっているので、長期雇用にレントを与える退職金の非課税などの制度をやめることが第一歩だ。

「雇用契約の多様化」が昔から提案されても実現しないのは、正社員の雇用保護が絶対的に強い状況では、有期契約でいい人材が集まらないからだ。この意味で解雇を実質的に禁止する規制が日本的雇用慣行を支えているが、規制を撤廃しただけでは雇用慣行は変わらない。それはself-enforcingな均衡状態なので、この均衡(の確率分布)を変えるには、中途採用や有期契約でいい人材を採る企業の多様化が必要である。