きのう慶応大学で行われたシンポジウムは、周波数オークションがテーマだった。それをやるべきであることはもはや議論の余地はないが、今国会に提出される電波法改正ではまた見送られた。すでに法制局を通って各省折衝も終わり、2月8日に閣議決定される見通しだという。問題はオークションの是非よりも、なぜ電波官僚がこれほど頑強にオークションに抵抗するのかということだ。

私もそれがよくわからなかったのだが、きのう岸本周平衆議院議員の説明を聞いて眼から鱗が落ちた。原因は電波利用料だというのだ。昨年度の電波利用料収入は642億円。これは一般会計だが、実質的にはすべて総務省が使える隠れ特別会計になっている。来年度の総務省のICT予算が約1200億円だから、その半分以上の隠し財源を持っているのだ。

電波利用料は、かつては無線局の事務費をまかなうわずかな手数料だったが、携帯電話の増加にともなって急増し、地デジのアナアナ変換など通常の予算では通らない経費に当てる「総務省の貯金箱」になっている。最近は地デジ対策の支出も減って余っており、「研究開発予算」と称して天下り先の特殊法人などにばらまく貴重な財源だ。

ところが周波数オークションになると、こういう不透明な会計は許されない。どこの国でも一般会計に入れるのが常識だから、電波利用料をオークションに変えると、総務省はこの貯金箱を失い、財源を財務省に取られてしまうのだ。それが彼らがオークションに反対する最大の理由だという。

日本の官僚の最大の仕事は民間企業の利害調整であり、特に総務省の技官は所管企業の多くに天下っているため、そういう大先輩が電波部の課長より強い発言権をもっている。彼らのいうことを聞かないと天下り先が減るので、調整は大変だ。総務省が自由に使える電波利用料は、OBに便宜供与していうことを聞かせる逆賄賂の財源なのだ。

これがかつて民主党が批判していた特別会計のからくりである。彼らがそれが問題だと目をつけたところは正しかったのだが、政治家に知識がないものだから、官僚の抵抗にあってほとんど手をつけられない。その氷山の一角が、この電波利用料である。

しかし電波法の改正が閣議決定されても、国会はねじれているので自民党が反対したら通らない。特別会計を批判している民主党が、なぜこの隠れ特別会計を温存して公約した周波数オークションをつぶしたのか。自民党はこれを「対決法案」として、民主党に説明を求めてはどうだろうか。