きのうのアゴラ就職セミナーは満員で、すごい熱気だった。特に学生からの質問が切実で、「企業が何を求めているのかわからない」とか「私の大学はもともと相手にされてないのだろうか」といった不安が大きいことがよくわかった。

城さんの話のポイントは、日本の会社が「2階建て」になっていて、2階の大企業の正社員が「ローリスク・ハイリターン」である構造を前提にすると、学生の大企業志向はやむをえないということだった。このような二重構造が日本の労働市場を非効率にしているのだが、学生がそれを変えることはできない。とりあえず2階にもぐりこむノウハウを身につけるしかない。

皮肉なのは、労働者に要求されるスキルと大学教育のギャップが大きくなって、学歴の意味があまりなくなっているのに、逆に学歴差別が激化していることだ。かつては物理的に制約されていた会社への応募がリクナビなどの就職サイトでクリック一つでできるようになったため、人気企業では応募が5万人にも及ぶ。このため学生を学歴で「足切り」する傾向が強まっているのだ。これは来週のセミナーの講師である常見陽平氏も指摘することで、就職サイトによって就活にかなり深刻なゆがみが生じている。

ところがその学歴も、大学院の大幅な増員によって無名大学から有名大学の修士課程に入る学歴ロンダリングが容易になり、学生の半分以上をAO入試や推薦入学で入れる学歴のインフレが起きて、信用できなくなっている。学歴ロンダリングは大学院名と大学名を比べればわかるので意味がなく、学歴のインフレについても最近は高校名を見る人事担当者が多いようだ。

学歴は、非効率な日本の労働市場の中で唯一シグナリング機能を果たしていたのだが、それも信用できなくなって、就活は「コミュニケーション力」やら「突破力」やら、ますます訳のわからない競争になっている。これでは当然「はずれ」が多くなり、そういう厄介者を終身雇用の中でどうやって「処理」するかが人事部の頭痛の種だ。

ノンワーキング・リッチは存在するのかという問題については、「業種によって違うが、トヨタのようなグローバル企業でも50代で賃下げするわけではないので、ノンワーキング・リッチはかなり多い」というのが城さんの見立てだ。しかしこの状況は、少しずつ変わっている。パナソニックやユニクロのように海外採用する場合、こういう日本的雇用慣行ではいい人材は取れない。他方、JALのように人材の劣化した企業は淘汰される。

だからグローバルに競争する最上位企業と、市場からたたき出されそうな最下位企業は、雇用慣行を変えざるをえないだろう。しかし大部分を占めるその中間の企業は、規制に守られ、年功序列を守りながら、ゆっくり沈んでゆく。本来は政治がそれを止めなければならないのだが、労組を基盤とする民主党政権がそれを実行する可能性はゼロだし、自民党も労働市場に手をつける気はない。

このように日本の会社が泥舟になりつつある今では、優秀な若者は海外に出たほうがいい。そこまで自信のない若者は、とりあえず2階企業にもぐりこんで、一定のキャリアを積んでから起業したほうがいい。いま入った企業が定年まで存在する可能性はほとんどないので、企業に頼らないで自立できるスキルをいかに磨くかが勝負だ。

来週以降のセミナーも、まだ席があるのでお申し込みください。2月・3月のセミナーは、少人数に絞って個人的な相談にもお答えします。