会長問題のドタバタに関連して週刊誌に電話でコメントを求められたが、私はもう電話コメントには応じないことにしたので、悪しからず。JBpressにも書いたように、こういう田舎芝居は毎度のことで、むしろ何もなかったことが珍しい。

NHKの会長といえば世間的には格好がいいが、権限はほとんどない。NHKの経営方針は、実質的には経営企画局や技術局などで立案されて理事会で決まる「官僚主導」である。これを是正するのは、霞ヶ関以上にむずかしい。それは放送の仕事が特殊で、役所のように常識で判断しにくいからだ。たとえば来年の大河ドラマで何をやるかという問題を、ビール会社出身の会長が判断することはできない。技術的な問題は、もっとわからない。

これはNHK官僚がバカや悪党だということではない。むしろ今の副会長・理事のうち、私の知っている人はみんな聡明で人格者である。問題は、むしろ「いい人」すぎて、思い切った転換ができないことだ。NHKも他のメディアと同じく、経営のプロではない現場出身の記者やディレクターがトップになるので、どうしても「いい番組をつくることが大事だ」という発想になる。

これは今回の騒動の原因になっている経営委員会も同じだ。そのメンバーは、倉田真由美さんとか幸田真音さんとか、率直にいって経営委員会というより「視聴者懇談会」である。昔はそれでよかったのだ。NHKの仕事はテレビとラジオの放送だけで、受信料収入も決まっているので、企業戦略なんか必要なかった。

しかし時代は変わった。いくらいい番組をつくっても、ビジネスマンも若者もテレビを見ない。今の受信料制度を守るなら、BBCのiPlayerのように思い切ってウェブに軸足を移さないと生き残れない。1社で8チャンネルももつのはやめて、一部はペイテレビにすべきだし、電波を新規参入に開放することも必要だ。

だが、そういう大きな意思決定は、調整型の理事にはできない。安西氏のようなネットワークの専門家が、客観的な目で見て大きく軌道修正する必要がある。彼なら「テレビ」にこだわる技術陣を説得することもできただろう。この意味でNHKは、海老沢時代の「失われた20年」を挽回するチャンスを逃した。現場はまじめで優秀なのに、経営はどうしようもない日本企業の問題を、今度の騒動は象徴している。