きのうも新年早々、某官庁が「日の丸技術」を官民共同で輸出する研究会の話を聞かされた。こんな話は今まで一度も成功したことがないのだから、それが失敗することを理解するのは簡単だが、それを「今度こそ成功する」と信じている官僚が何を誤解しているのかを理解するのはむずかしい。

「物事を正しく理解している人は同じように正しいが、バカはそれぞれにバカである」というのは、私がトルストイの法則と呼んでいるものだが、この例は霞ヶ関だけではない。日銀が36%も量的緩和をしても物価は上がらなかったという図を見せても、FRBが130%も緩和しても物価は下がったという事実を示しても、それを理解できない人がいる。その言い訳もさまざまだ。
  • 高橋洋一「あともう少し緩和を続けていれば上がったはずだ」(5年も続けたのに)
  • 勝間和代「それはコアCPIかコアコアCPIか」(どっちも上がってないよ)
  • モリタク「日経平均は上がった」(それじゃ今はインフレだね)
そして追い詰められた彼らが持ち出すのは「いくら緩和してもインフレにならないなら無税国家になる」とかいう笑い話だ。もちろん各家庭に1億円ずつ配ったら、大インフレになるだろう。それを1000万円にしたら、マイルドなインフレが長期にわたって続くとでも思っているのだろうか。彼らが何を誤解しているのか、それとも単なるバカなのかを理解するのもむずかしい。

リフレ派には何の影響力もないので、彼らが誤解しているのは実害がないが、官僚が性懲りもなく日の丸技術プロジェクトを繰り返すのは、ITゼネコンをミスリードして、だめなIT業界をますますだめにする。きのうも外資系のメーカーの人が「韓国や台湾との差は絶望的に広がった。今から追いつくのは無理だ」と言っていた。

菅首相は「TPPで平成の開国を」とうたい上げたそうだが、この認識は1周遅れだ。少なくともIT産業に関する限り、その衰退を(一時的に)止めるには、むしろ関税をかけて鎖国するしかない。もはやコンピュータも携帯も、コメと同じ絶対劣位の商品なのだ。開国しても海外に攻めていける武器がないという事実を理解することが、この問題の出発点である。