X君へ

今年も何人かのNHKの同期から年賀状をもらった。もう10年以上も年賀状は出してないが、もらった年賀状には返事していたので細々とつきあいが続いていた。でも今年は返事も出さないことにしたので、これがたぶん君への最後のあいさつになると思う。

思えば同期といっても35年前のことなのに、よくつきあいが続いたものだ。われわれの同期は石油ショックの影響で採用が史上最少で、放送職(ディレクター)は30人しかいなかったから、全員の顔と名前を知っていて、誰が最初に昇進したかといった情報も濃密に共有していた。私は管理職の内示をもらったとき辞めた落ちこぼれだが、その後の同期の年賀状を見ていると、まるで私のもう一つの人生を見ているようだった。

40代でチーフプロデューサーになって現場を離れると、そのあと20年、つまりサラリーマン人生の半分をデスクワークで過ごす。マスコミというのは現場が一番楽しいので、管理職を辞退する人もいるが、そういう人はチーフディレクターなどの専門職になって出世コースから外れ、天下り先も用意されない。私の同期にはそういう人は少なく、大部分が40代後半には地方局の放送部長ぐらいになった。

しかし50代からが大変だ。出世頭は東京の部長から編集主幹などになるが、大部分はここでラインからはずれ、東京の窓際ポストと地方を往復し、徐々に関連団体への片道切符をもらう。私が「ノンワーキングリッチ」という記事を書いたのも、君から地方への異動のあいさつの葉書を読んだときだった。

たぶん私も今ごろは、地方の局長ぐらいを最後に関連団体に転籍して、退職金をウン千万円ぐらいもらっていたことだろう。それは絶対安全で、ほとんど働かなくても年収は十分で、世間的にはまぁまぁの人生かもしれないが、君が葉書に書いたように「死ぬほど退屈」だろう。あと平均25年以上ある人生を、どうやって過ごせばいいのだろうか。

本人が退屈しているだけなら害はないが、何も仕事をしてないのに肩書きだけ立派なわれわれの人件費は、会社(というか視聴者)の大きな負担になり、若い人の採用枠を圧迫しているのだろう。私の世代は年金は払った以上にもらえるので「食い逃げ」できるが、NHKの企業年金も破綻して、確定拠出に移行するようだ。

思えば、われわれの世代(団塊のすぐ下)は、戦後の日本の盛衰をそのままたどってきたような気がする。80年代には「日本のマネーが世界を制覇する」みたいな番組をつくり、90年代には不良債権の番組をつくった。われわれが若返ることはないが、日本は若返ることができるのだろうか。それともわれわれと一緒にゆっくり老いてゆくのだろうか。

まぁ他人のことを心配してもしょうがない。われわれが引退すれば、次の世代が必死で考えるだろう。誰だって自分のこと以外は真剣に考えないものだ。だから、われわれの世代から上は、なるべく早く引退して老後を楽しんだほうがいいと思う。われわれより平均年齢の高い政治家のみなさんも、あまり頑張らないでほしいものだ。

敬具