けさの朝日新聞で紹介されている東大の「日本人の情報行動」調査によると、10代の若者のインターネット利用率が減って、ケータイが主なメディアになっている。他方でテレビはあまり減っておらず、固定インターネットが「負け組」だ。FTTHが普及しないのは、料金が高いからではない。

これを「若者のネット・リテラシーが落ちている」とか「ガラパゴス化」などと嘆くのは間違っている。若者はケータイでウェブにアクセスしており、テレビからインターネットへという流れは変わらない。問題はさらに「固定インターネットから無線インターネットへ」という変化が起きていることだ。20代でも固定インターネットの利用率が横ばいになっているように、この流れは一時的なものではない。

最近の学生は、下宿の場合は電話回線を引いていないし、自宅でも固定電話は使っていない。彼らはケータイで長文の作成もこなすが、それでも限界が来たときは固定インターネットではなくタブレットに移行するだろう。電話回線があればWi-Fiを使うが、なくても基地局につながる。つまりアクセス回線はもはや不可欠のボトルネックではなく、無線インターネットの中継系の一つに過ぎない。メタル回線がなくなるのは時間の問題だが、それは光ファイバーではなく無線に置き換わるだろう。固定回線そのものが「中抜き」されるのだ。

ところが総務省は、光回線を「2015年までに半額」にするようNTTに要請するという。筆頭株主である政府が、株主の利益を無視して接続料の引き下げを強要するのは、通信規制のルールを逸脱している。FTTHのダンピングは無線との競争をゆがめ、プラットフォーム競争を阻害する。

すでに90年代後半に電話からインターネットへの変化は起こっていたのに、政府は電話時代の事業区分でNTTを分社化し、NTTはISDNに1兆円以上つぎ込み、放送業界は地デジで1兆円ドブに捨てた。「電話やテレビがインフラでインターネットはアプリケーションだ」という固定観念から抜けられなかったからだ。私は1998年に「インターネットが次世代のインフラになる」という原稿を日経新聞に書いたら、日経に出入り禁止になった。

このようなパラダイムの変化が見えないのは、破壊的イノベーションが登場したときよくある錯覚だ。かつてNTTも「IPは信頼性が低い」とか「ATMのほうが速い」と言って拒否した。そのレガシーをADSLという破壊的イノベーションで突破したソフトバンクが、「無線は信頼性がない」とか「FTTHのほうが速い」という理由で「光の道」を提唱するのは、皮肉な「イノベーターのジレンマ」である。

必要なのは規制強化ではなく、無線が基幹インフラで固定系は補助だというパラダイムの転換に気づくことだ。1年前に「光ファイバーは必要なのか、むしろ少し遅れた人が光ファイバーを使っているのではないか」と述べた孫正義氏にはその変化が見えていたはずだが、古いインフラにこだわる御殿女中がミスリードしたのだろう。

インターネットがそうだったように、信頼性やビットレートの問題は帯域とインフラ投資で解決できる。世界的にみても、キャリアは固定から無線へ投資をシフトしている。全米ブロードバンド計画の中心に無線をすえてテレビ局から周波数を取り戻そうとしているFCCも、パラダイム転換を終えたようにみえる。日本の役所やキャリアの頭が切り替わるのは、また10年ぐらい遅れるのだろうか。