毎年、税制改正のたびにもめている所得税の配偶者控除の縮小が、また見送りになるようだ。これは年収103万円以下の配偶者のいる世帯主の所得を控除する専業主婦優遇策であり、労働人口が急速に減少する日本で、貴重な労働力である女性の就労をさまたげる逆インセンティブになっている。

Economist誌も指摘するように、日本の女性の労働参加率は先進国でもっとも低く、賃金格差は最大だ。この原因は、総合職の女性がいったん結婚退職すると、次に就労するときはパートしかないからだ。「ワーキングプア」と呼ばれる非正社員の大部分は、こうした主婦のパートである。

こうした硬直的な雇用慣行が、少子化の原因になっている。子供一人あたりの養育コストは1300万円程度だが、八代尚宏氏も指摘するように、最大のコストは出産退職の機会費用である。平均的な大卒女性が定年まで勤務した場合の生涯賃金は約2億7700万円だが、28歳で退職して子供を産んでから37歳でパートに出ると、生涯賃金は約5000万円。つまり子供のコストは2億4000万円にものぼり、子ども手当ではとても埋め合わせられない。

出産退職のコストが高いため、結婚しても子供を産まない女性が増えている。働きながら仕事を続けようとしても、保育所が整備されていないため100万人近い待機児童が発生しており、子供を預けることができない。さらに世帯主の転勤によって妻が退職せざるをえないケースが多く、女性が職業的なキャリアを高めることができない。

このように女性の就業をさまたげて専業主婦を優遇する雇用慣行ができたのは、労働力の余っていた高度成長期に、男性を企業戦士として長時間労働に動員し、その「銃後」となる家庭を専業主婦が守るためだった。しかし世帯主の所得が頭打ちになる一方、労働人口の減少が日本の成長を制約する最大の原因となった今、こうした制度は抜本的な見直しが必要だ。

女性は、昔から労働力の一部だった。専業主婦などという生活形態は戦後のもので、大学教育を受けた女性が子育てに人生を浪費するのは社会的な損失だ。それを奨励する配偶者控除さえやめることのできない民主党政権は、「少子化対策」の意味も理解してない。