このごろ新聞は失言や野次など政治家の下らない話ばかりで、週刊誌やワイドショーは海老蔵たたき一色だ。私は歌舞伎はまったく知らないが、海老蔵が批判されなければならないのは顔見世興行に穴をあけたことだけで、傷害事件については彼が被害者なのに、まるで加害者のようなバッシングは尋常ではない。

芸人は、普通のサラリーマンとはまったく違う人種である。大勢の前で演技するというのは、ある種の狂気がなければできない仕事で、どこかバランスの崩れた人でないと一流にはなれない。昔から芸人は「悪所」と近いところにいて、河原乞食と呼ばれる両義的な存在だった。彼らが暴力団とつきあうのも闇の世界と近いからで、そういう世界を垣間見ることで観客は日常のストレスを解消するのだ。

プルーストは「サント=ブーヴにさからって」という有名な評論で、作品を理解するための最善の手段は作家の人生を知ることだというサント=ブーヴの批評理論を批判し、作品の評価は作者とは無関係だと論じた。これがテキストによって意味されるものを論じるのではなくテキスト自体を論じる、20世紀の形式主義的な批評の元祖である。芸人の価値も、芸のみで決まる。品行方正で演技の下手な歌舞伎役者には、何の価値もない。

日本文化の中でオタク系だけが元気があるのも、大人のモラルと無縁なところで自由に想像力を伸ばしているからだ。マスコミがマスコミをたたいて「コンプライアンス」で自縄自縛なっている今こそ、ウェブメディアが新たな言論や文化を創造する場として重要になるだろう。