人口減少時代の大都市経済 ―価値転換への選択戦後日本の高度成長は「奇蹟」ともいわれるほどめざましいものだったが、いま起こっているのは、その逆に世界でも例をみない逆高度成長である。高度成長の要因を産業政策や「日本型企業システム」などに求める議論もあったが、実証研究の結果はもっと平凡なものだ。それは人口の急増によって低賃金の若年労働者が増え、彼らが農村から都市に大量に移動したという要因でほとんど説明できる。

そして今、この高度成長を支えた人口動態が逆回転し始めている。高齢者が急増し、若年労働者が減るのだ。その結果として本書が予想するのは、意外な現象だ。すなわち、都市の急速な高齢化が起こるのである。東京圏では2035年までに65歳以上の人口は75.7%も増え、人口の32.2%を占めるという。これは現在の島根県より高齢化率が高い。

その結果、財政危機や年金の破綻といった現象が、東京では先鋭的に起こる。東京の財政負担は25年間で2.13倍になり、税率(国税・地方税)は52.8%になる。このような負担は不可能だから、公共サービスの大幅な縮減は避けられない。といっても高齢者施設は増えるので、現役世代へのサービスを減らすしかない。つまり若者は、現在の2倍以上の負担をして今より貧しい公共サービスを受けることになる。

その結果、日本の成長を支えてきた大都市の活力は低下し、経済は停滞から衰退へと移行するだろう。この人口学的なトレンドはきわめて大規模な変化であり、労働生産性の向上などによってやわらげることはできるが、止めることはできない、と本書は述べる。だとすれば縮小する経済、特に急速に縮小する大都市経済にどう適応するかが問題だ。

重要なのは、労働市場の改革である。年功序列・終身雇用のシステムは、戦後の高度成長期には期せずして適していた。人口の大部分を占める若年労働者を、労働生産性以下の低賃金で働かせることができたからだ。しかし彼らが高齢化すると、逆に生産性をはるかに上回る高給を取る中高年の社内失業者を生み出す。雇用を流動化し、女性の就労を増やす改革が不可欠である。

年金制度も維持できなくなる。人口増加時代には、賦課方式の年金は多くの現役世代で少数の老人を支える便利なしくみだったが、これも逆転し、すでに実質的に破綻している。公的年金をなくすことは困難だが、積立方式のような維持可能な制度に変えることは避けられない。長期的には、年齢ではなく所得に応じて再分配を行なう負の所得税のようなしくみに変えるしかないだろう。

都市のインフラについての考え方も、転換が必要だ。今後はインフラを維持するコストがふくらむので、今までのように成長のために再開発するのではなく、開発投資をコンパクト・シティに集中し、低コストで維持できる公共賃貸住宅などを増やすべきだ。「光の道」のような過剰投資は最悪である。

あまり明るい未来像とはいえないが、高齢化と財政破綻と世代間格差という日本の問題が、大都市とくに東京に集中して起こるという指摘は重要である。Economist誌もいうように、日本の低成長やデフレなどの根底にある原因がこうした人口学的な変化だとすれば、補正予算による景気刺激や日銀の金融政策なんて意味がない。いかに衰退を小さくし、どうすれば成長しない社会で幸福に生きられるかを考える必要があろう。