アメリカの中間選挙は民主党の歴史的な大敗に終わった。その最大の原因は明らかに不況で、特にオバマ政権の大規模な財政政策がほとんど効果を示さず、図のように10%近い失業率が1年以上続いている。これは金融破綻によって生じた大規模な不良債権(過剰債務)が残っているからで、90年代前半の日本経済とよく似ている。

それに比べると、過剰債務を脱却した日本のほうが財政政策はききやすいかもしれない。「アゴラ」にも書いたように、日銀が投信や不動産を市場から直接買い始めたのは、金融政策の範囲を超えた財政政策であり、これは理論的にはゼロ金利でもきく可能性がある。

先日、富山和彦氏の政府系ファンドの提案を評価したら、ある国会議員から「私も政府系ファンドを考えているのだが、どう思うか」という質問を受けた。私は財政の専門家ではないので責任をもって答える立場にはないが、富山氏の成功させた産業再生機構のようにガバナンスが機能していれば政府系でもうまく行く可能性はある。

その議員によると、日本の官庁には膨大な余裕資金があるが、今は普通預金でしか運用していないので機会損失が大きい。この一部を独立採算のファンドにして、民間のファンドマネジャーに運用させてはどうかという。年金基金などの実績からみると危ないような気もするが、不動産のプロでもない日銀がREITを買うのといい勝負だろう。円高を利用して、海外資産を買う手もある。

この場合、制度設計で重要なのは、富山氏もいうように民間と共同出資の時限組織とし、公益を目的にしないということだ。政府系ファンドといえども、目的は資金を有利に運用することであって、他の政策目的に使ってはいけない。民主党政権のようにJALの救済に使ったり、「グリーン」とか「エコ」とか名のつく事業に片っ端から投資することは禁止し、外資系ファンドと同じように利潤動機で行動するのだ。

ただ、このファンドは短期資金なので、持続的に成長率を上げる役には立たない。あくまでも一時的な需要不足を埋める意味しかないが、デフレを止めることが目的なら、金融政策より確実だ。「奇策」という批判を受けることは承知の上だが、一部の政治家がいう政府紙幣や国債の日銀引き受けよりリスクははるかに小さい。今回の補正予算のように中途半端な財政出動をするぐらいなら、小規模な政府系ファンドの実験をしてみる価値はあるのではないか。