Economist誌が、ジャンクボンドを特集している。サブプライム問題で債券市場は壊滅状態になったと思いきや、図のようにジャンクボンドの発行額は史上最高だ。それはアップルやグーグルにも比肩すべきイノベーションだったと同誌は評価している。

しかし1980年代にマイケル・ミルケンがジャンクボンドを開発したとき、彼の投資銀行ドレクセル=バーナム=ランベールは「強欲」の象徴とされた。メディアは彼らを「野蛮な来訪者」と攻撃し、映画「ウォール街」はミルケンを欲望のために善良な企業を破壊する冷血漢として描いた。そしてミルケンはインサイダー取引で検挙され、ドレクセルは倒産した。しかし彼らの引き受けたジャンクボンドによってMCI、マッコーセルラー(のちのAT&Tワイヤレス)、TCIなどのITベンチャーが数多く誕生し、ドレクセルは情報革命の生みの親となったのだ。

日本の現状は、80年代のアメリカに似ている。戦後ずっと世界をリードしていた製造業が巨大化した「恐竜」となり、日本などの「破壊的イノベーション」の脅威にさらされたとき、既存企業がまずやったのは、政府に泣きついて「雇用を守る」ために補助金を引き出す政治的ロビイングだった。米政府は「不公正貿易」を攻撃して日本からの輸入を阻止し、「知的財産権」を強化してイノベーションを妨害したが、それは有害無益だった。古い企業を守っても、新しい企業は生まれないのだ。

結果的には、アメリカをよみがえらせたのはこうした保護主義ではなく、政治的に敵視され、犯罪者として訴追された投資銀行だった。それは野心とアイディアはあるが資金のない起業家たちにチャンスを与え、恐竜を倒して新しい人類の時代を生み出したのだ。もちろん成功例の何倍も失敗があり、違法行為もあったが、こうした新陳代謝がなかったら、アメリカ資本主義は恐竜とともに没落していただろう。

今の日本にもっとも必要なのも、新陳代謝である。ところが「労働ビッグバン」を提唱する財界も、自分たちの地位を守るために株式交換を「三角合併」と呼んで阻止しようとし、先進国で最少の企業買収を防ぐために600社以上が買収防衛策で身を固める。おまけに買収を仕掛ける企業には、東京地検特捜部が乗り込んでくる。

きのうはCSの朝日ニュースターで、「正社員のクビを切りやすくする改革」をとなえて非難を浴びた辻広雅文氏と話したが、彼も「日本が20年間も停滞している原因は、やり残している労働市場の問題しかない」という点で経済学者の意見は一致しているといっていた。しかしこういう改革は、日弁連や労働法学者などの「善意の壁」でブロックされてしまう。

だから労働市場より先に資本市場の改革を行ない、買収防衛策を禁止して企業買収を全面的に自由化し、経営者のクビを切りやすくする改革を行なうことが政治的には効果的かもしれない。現代の企業理論が示すように、資本主義とは資本をコントロールする制度ではなく、資本の所有権によって労働者をコントロールする制度だからである。