New Keynesian Economics - Vol. 2: Coordination Failures and Real Rigidities (Readings in Economics)今年のスウェーデン銀行賞(通称ノーベル経済学賞)は、ピーター・ダイヤモンドなど3名のサーチ理論に与えられた。本書は彼の有名な論文を含む「ニューケインジアン」の論文集である。ダイヤモンドの理論については、私もコラムで少しふれたことがあるが、最近これに関連してちょっとした出来事があった。

週刊ダイヤモンド・オンラインで齊藤誠氏が、最近の経済状況を「長期均衡水準」にあるとのべたのに対して、飯田泰之氏がツイッターでこうコメントしたのだ:
日本経済は長期均衡水準らしい……現状を非自発失業がない状態だと考えられる人はよほどにおめでたいと思う


実は、ちょうどこの前後に私が齊藤氏と私信でやりとりしたとき、彼が「ネット上で発言するとこういうコメントばかりで非生産的だ」と怒っていたので、
@iida_yasuyuki 「まさか自然失業率はすべて自発的失業だと思ってるんじゃないでしょうね」by齊藤氏
とリプライしたのだが、齊藤氏がきょうくわしく説明している。要するに、非自発的失業というケインズの造語は、今ではプロの経済学者は使わないのだ。これについては長い歴史があり、1967年にフリードマンが「自然失業率」という概念を提唱したときも、「失業を自発的な余暇とみなす反社会的な理論だ」という批判が出て、NAIRU(Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment)という奇妙な言葉もつくられたが、今はほとんど使われない。

それはケインズ理論には、論理的な難点があるからだ。失業が「非自発的」な不均衡状態だとすれば、それはなぜ均衡しないのだろうか。いずれ均衡するなら一時的な攪乱にすぎないし、そのままずっと動かないのなら一種の均衡状態である。これが70年代に流行した「不均衡理論」が挫折した原因で、そのころ不均衡理論を提唱したバローや岩井克人氏なども、その後は放棄した。池尾和人氏もいうように、
「そうした状態は不均衡状態というよりも、コーディネーションの失敗(相互調整の失敗)を伴う悪い均衡として現代の経済学ではとらえるわけです。」池尾・池田本、p.161。均衡というのは、ある意味で安定的な状態ということであって、効率的な状態という含意が常にあるわけではない。
本書は、ケインズ的な現象をコーディネーションの失敗(戦略的補完性)という概念によって統一的に説明する論文集である。現状をいつまでも「非自発的失業」や「有効需要の不足」などという古い概念で考え、政府や日銀がその「不均衡」をすべて埋められると思っている人は、この20年前の本から出直してほしい。