boldrinBoldrin-Levineの訳本が出る。NTT出版の編集者が、私のブログ記事を見て翻訳を決めたそうだ。ウェブサイトで40ページ無料で読める。著作権や特許の問題を考える人々の必読書である。

その主張は明快で、「知的財産権」は財産権ではなく、著者や発明者を特権化して仲介業者をもうけさせるための知的独占(intellectual monopoly)だから、すべて廃止すべきだというものだ。著作権は財産権ではなく、著作物を譲渡したあとも著作者が複製を禁止する権利をもつ「下流ライセンス権」である。これは18世紀に木版業者の独占を守るためにつくられた特殊な権利で、デジタル時代には実施不可能だ。

著者の報酬を守るために、表現にとって第一義的ではない複製という行為に着目したのは、かつては本の印刷がボトルネックで、それを規制することで著作物の利用をコントロールできたからだ。しかし誰でも容易にデジタル情報を複製できる現在では、複製を禁止するには国民全員の行動を監視する必要がある。

著作権は著者にとってメリットもあるが、過去の著作物の利用を困難にする弊害もあり、電子出版のような新事業にとっては弊害のほうがはるかに大きいので、著作権のネットの社会的便益はマイナスだ、と本書は主張する。したがって狭義の財産権(著作者が情報を1回だけ譲渡する権利)のみを認め、そこで権利は消尽する。たとえば音楽を発表するときは、作曲者はレコード会社にすべての権利を売却し、その後の複製を禁止する権利をもたない。

問題はレコード会社の売ったCDとその複製との競合である。これを避けるには、レコード会社がCDを販売するとき「商業目的で再販売してはいけない」といった契約を消費者と結ぶとか、DRMで制限すればよい。民法の契約自由の原則は著作権に優先するので、著作権法に違反する契約を結んでもかまわない。契約違反については損害賠償訴訟を起すことができるので、刑事罰は必要ない。文化庁も「将来DRMが標準化されれば、契約ベースで解決することが理想だ」としている。

本書の議論には批判が多く、財産権と契約だけで、たとえば医薬品のような初期費用の大きな発明が守れるのかというのは疑問だ。むしろそういう特定の発明に限って「医薬品ライセンス法」といった個別の法律をつくったほうがいいのかもしれない。現在の「知的財産権」による報酬請求権のメリットより流通を妨害する弊害のほうが大きいという彼らの主要な主張は、電子出版をやっていると実感する。

問題はそれをどう改革するかだが、フェアユースを導入するかどうかだけで3年以上も議論している日本の現状では、絶望的というしかない。現在の著作権による保護が強すぎるので、権利者がそれを改正するインセンティブをもたないのだ。おまけに著作権はベルヌ条約で国際カルテルになっているので、改正は不可能に近い。グーグルが「世界を支配」して、ベルヌ条約を廃止してほしいものだ。