FCCが、UHF帯のホワイトスペースを利用するスーパーWi-Fiの利用規則を決定した。注目されるのは、これまでホワイトスペース利用の条件とされてきた信号検知システムではなく、位置情報を使ったgeo-location機能を義務づけている点だ。これによってIEEEで標準化されている幅広いWi-Fi技術がgeo-locationデータベースを付加することで利用可能になり、最大で現在のWi-Fiの20倍の出力をもつアクセスポイントが使えるようになる。

Wi-Fiの出力が大きくなるということは、通信業界の未来も変える可能性がある。現在の携帯電話は、基本的には電話網と同じ中央集権型ネットワークで、キャリアがすべての通信の「門番」として料金を取る。この構造は技術的には前代の遺物だが、電波の場合は新しい技術があっても周波数がないと使えない。これまでは2.4GHz帯や5GHz帯などの不利な帯域しかなかったため、公衆無線LANはビジネスとしては成功しなかった。

しかしホワイトスペースで大出力の基地局ができるようになると、自律分散型のインターネットが無線でも実現する。周波数の壁に阻まれていた無線インターネット革命が、今度こそ起こるかもしれない。これまでホワイトスペースの実証実験を行なってロビー活動をしてきたマイクロソフトやグーグルは「歴史的な決定だ」と歓迎のコメントを発表している。

ところが総務省が「ホワイトスペース特区」で推進しているのは、ワンセグ放送だ。その事業者も放送局やその関連会社ばかりで、通信キャリアは「自粛」させられたらしい。ワンセグは、一時は普及したが、最近の新しい端末にはほとんどついていない。iPhoneやiPadなどのスマートフォンでYouTubeを見るほうが楽しいからだ。

他方、携帯端末は、ソフトバンクにみられるように、周波数の不足で窒息状態だ。最大200MHzもあるホワイトスペースをスーパーWi-Fiに割り当てれば、ソフトバンクも息を吹き返すだろう。通信端末で放送型サービスを行うことは容易だが、その逆は不可能だから、オプションの広いWi-Fiにするのが当然だ。それなのに需要があるかどうかもわからないワンセグに割り当てるのは、総務省が「日の丸技術」として世界に売り込むためだ。

しかし誰が考えても、スーパーWi-Fiとワンセグのどちらが世界標準になるかは明らかだろう。かつて真珠湾の前夜にも、陸軍省整備局の報告では日米の戦力や補給力に大きな差があり、2年以上は戦えないという結論が出たが、東條内閣は企画院に生産力を誇大に見積もった報告を出させて御前会議を強行突破した。客観情勢を無視して「大和魂があれば何とかなる」とする主観主義は、今も霞が関の伝統らしい。