The Grand Design日常生活でむしゃくしゃすることがあったときは、宇宙論の本を読むとよい。本書の冒頭に書かれているように、宇宙の歴史の中ではわれわれの人生は一瞬であり、広大な宇宙の中では人間なんてゴミのようなものだ。

本書は最近の宇宙論を一般向けにやさしく解説したものだが、目新しいのはスティーヴン・ホーキングがM理論に依拠していることだろう。彼はこれを「主流派の理論」と紹介しているが、今のところこれを支持する実験や観測は一つもない。検証に必要なエネルギーが大きすぎるからだ。M理論は今のところ、検証も反証もできない数学理論にとどまる。

宇宙論の最大の難問は、この宇宙がなぜ存在するのかということだ。宇宙定数などのあらゆるパラメータは、ちょうど人間の生存に適した値になっているが、これは偶然としては確率がゼロに近い事象である。そこに何らかの意図的な「グランド・デザイン」があったと推測するのは自然だ。

これに対して著者は、そういう設計図は必要ないと主張する。その説明は弱い人間原理によるものだが、よくある「多宇宙理論」ではなく、ファインマンの経路積分を全宇宙に適用し、すべての可能な量子状態が並行して存在すると考えるものだ。宇宙全体についての設計図がなくても秩序が形成されるメカニズムを、著者はセル・オートマトンなどの例で説明する。

しかしどの説明が正しいのかは、誰にも(物理学者にも)わからない。欧米では、著者が「神は必要ない」とのべたことが論議を呼んでいるが、彼は神が存在しないことを証明したわけでもない。人間原理はトートロジーだからつねに正しいが、それによって何も証明することはできない。

確実なのは、この宇宙が――そして人間が――存在することが、ありえないほどの幸運だということである。それを知れば、どんな不運に見舞われている人も少しは気が休まるだろう。