血液型やマイナスイオンからホメオパシーまで、世の中にニセ科学の種は尽きない。経済学は科学といえるかどうかあやしいが、ニセ経済学の類は多い。ニセ科学には、次のような特徴がある:
  • 複雑な現象を一つの原因で簡単に説明する
  • 「**さえやればすべて直る」と万能の治療法を宣伝する
  • 一見もっともらしい科学用語を使い、学界の権威を利用する
リフレはこの3つの特徴を見事に満たしているが、もっとお粗末なのは「国債はいくら発行しても大丈夫」と称するバラマキ派である。日経ビジネスオンラインの三橋某の記事も、前半は磯崎さんも指摘するようにバランスシートの読み方を知らないで支離滅裂な話をしており、日本語として意味をなしていない。

主要部分では、GDPギャップを「需要と供給のギャップ」と取り違えてトンチンカンな話をしている。以前の記事でも書いたように、GDPギャップは潜在GDPと現実のGDPの差なので、「構造改革で生産性を上げると、供給が増えてGDPギャップが拡大する」という話はナンセンスである。

この潜在GDPという概念は、バラマキ派の「どマクロ」理論にはない。ケインズ理論では、政府がいくらでも財政出動によって有効需要を増やせると教えるが、ニューケインジアン理論では潜在GDP(自然水準)までしか上げることはできない。また金融政策は「デフレの罠」で制約されるので、GDPを増やす効果は財政政策のほうが確実だが、問題は政府が民間より賢い投資ができるのかということだ。

小野理論を含むバラマキ派は、全知全能の政府が経済を最適にコントロールできると想定しているが、そんな幻想は80年代までに世界各国で否定された。今回の経済危機で、アメリカは緊急措置として財政出動を行なったが、その効果については否定的な評価が多い。政府の愚かな政策がここまで日本経済をボロボロにしたのに、それを政府の投資で建て直そうというのは、盗まれた金の捜索を泥棒に頼むようなものだ。

ニセ経済学を見分けるのは簡単である。「**さえやれば日本経済は一発で回復する」とかいうわかりやすい話は疑ったほうがいい。そんなうまい話があれば、政府も日銀もとっくにやっているはずだ。ニセ経済学は現象を単純に割り切って説明するが、本当の経済学は複雑でわかりにくい説明しかできない。それは現実が複雑だからである。