民主党のデフレ脱却議連は、政治家が物笑いになるネタを提供するのが仕事らしい。事務局長の金子洋一氏は「日本単独でも介入して1ドル95円にしろ」と主張しているが、10円もドルを増価させるには何兆円かかると思っているのか。

現場のトレーダーである藤沢数希氏も指摘するように、1日100兆円近く取引されるドル/円取引の中では、政府の数兆円の介入なんてほとんど問題にならない。各国の政府が協調するならまだしも、欧米諸国が自国通貨安を放置している中で、日本政府だけが介入したって税金の無駄づかいになるだけだ。

もちろん今のような急激な円高はよくないし、デフレもよくない。円安やマイルドなインフレが望ましいということに反対する人はほとんどいない。しかしそれが望ましいということと、政府がつねに望ましい状態を実現できると信じることは別だ。デフレ脱却議連に集まる政治家は、かつて政府は万能と信じて公共事業で日本を不況から脱却させようとした自民党と同じである。

彼らの頭にあるのは、政府がいくらでも「有効需要」を作り出し、中央銀行がいくらでも通貨を発行して、経済水準を望ましいレベルに維持することができると信じる素朴ケインズ主義だろう。それを批判したフリードマンやルーカス以来の新しいマクロ経済学が明らかにしたのは、政府の介入には限界があるということだ。

経済の実力で維持できる自然水準を超えて政府が「完全雇用」を実現しようとするとインフレを引き起こし、デフレを止めようとしても金利をゼロ以下にはできない。インフレを起こせない中央銀行が「インフレにするぞ」といっても、誰も信用しない。政府も経済のプレイヤーの一人であり、他のプレイヤーの反応を無視して自分の望む通りの結果を出すことはできないのだ。

こういう政治家の発想は、いまだに政府が大量に国債を発行して景気を回復しろと主張する自称エコノミストと同じだ。彼らは、いつまでたっても政府は民間より賢明な投資ができるという信仰が抜けない。そんなに賢明な政府だったら、そもそも今のようなことにはなっていないだろう。社会主義は20世紀に消滅したが、日本ではまだケインズ主義という「隠れた社会主義」が生き残っているようだ。