きょうは民主党からのお誘いで、VHF帯のモバイル・マルチメディア放送についての民主党のヒアリングを見学した。

率直にいって、私にはどっちのグループの話も、ビジネスとして理解できなかった。聞いていた議員の感想も同じだったようで、みんな「これでビジネスは成り立つのか?」と質問していた。答える側も、総務省は「やっていけないという声もある」、ドコモは「甘くない」、KDDIは「大変きびしい」といったもので、「これでもうかる」という話は誰からも聞けなかった。

当然である。ドコモの計算では設備コスト438億円で、委託放送事業者(放送局)の料金は1MHzあたり5年で10億円、KDDIの設備コストは961億円で、委託料金は5年で29億円だ。チャンネルを借りる放送業者がいるのか、という質問には、どっちのグループも「委託事業者がわからないとビジネスモデルは描けない」と答えていた。こんな高価なインフラを使って何をやるかも決まらないまま、受託事業者を選定できるはずがない。

通信衛星のリース料は、1チャンネル(6MHz)年1億円以下だが、それでもほとんどのチャンネルが赤字だ。その10~30倍の料金で、小さい携帯端末のチャンネルを借りる業者がいるとは考えられない。ドコモは「月額300円で、5年後に5000万台が普及する」と見込んでいるが、彼らが「おかげさまで好調」というBeeTVは、開業後1年あまりで130万台だ。いったいどこから5000万台という数字が出てきたのか。MediaFLOは、ドコモによれば「まだ全世界で30万台しかない」というが、どっちもいい勝負である。

この調子では、どちらが営業してもチャンネルは埋まらず、CS放送以上の大赤字になるだろう。岸本周平氏は「ここまでもつれたのだから両方にやらせろ」と言っていたが、それではもっと状況は悪くなる。設備は同じで使える帯域は30チャンネルぐらいに減るので、モバホのようににっちもさっちも行かなくなる。どっちかが降りればまだいいのだが、年間数十億円の維持費はドコモやKDDIにとっては大したコストではないので、電波をふさいだままチキン・ゲームが続くおそれが強い。

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今の207.5~222MHz(10~12チャンネル)だけで考えるかぎり、どう割り当てても採算はとれないが、来年アナログ放送の終了であくのは、ここだけではない。上の図のように、170~207.5MHz(4~9チャンネル)も同時にあくのだ(1~3チャンネルもあくが、これは帯域が離れている)。ここは「自営通信(安心・安全)用の公共ブロードバンド」に使うことになっているが、実態は災害用の通信で、業者も使い道に困っている。

なぜそんな数年に1度あるかないかの用途に32.5MHzも割り当てるのか、関係者にきいてもよくわからない。可能な説明は、アナログ放送の停止でVHF帯が全部で65MHzあくので、それを2で割って官民にわけたということらしい。しかも同じ災害情報を警察と消防と自治体がバラバラに出し、全国に5チャンネルも取る。縦割り行政をそのまま電波に持ち込んだわけだ。

災害用の帯域は衛星にもマイクロ波にもあるのだから、そのバックアップに必要だとしても汎用の携帯端末でやれば十分だ。4~12チャンネルをモバイル・マルチメディアの両グループに4チャンネル(24MHz)ずつ割り当てれば、それぞれ120チャンネルぐらいとれ、ビジネスとして可能性が出てくる。災害のときは、モードを切り替えて使えばよい。電波部は「周波数の分配はもう終わった」というかもしれないが、公共ブロードバンドが「委託事業者」になればいいのだ。

このように特殊な業務用無線に固有の周波数を割り当てないで、周波数は汎用無線に帯域免許で割り当て、用途はアプリケーションで実現するのが世界の潮流である。「公共用」という言葉で思考停止せず、VHF帯全体を見直すべきだ。実際に電波が止まるまでには、まだあと1年ある。

追記:どうしても災害用に固有の周波数が必要なら、ソフトウェア無線で変調方式を切り替えるFrontier Wirelessのような方式もある。これは軍事用の帯域だが、平時は汎用無線に使う。