リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上) 追いつめられた金融エリートたち原稿料をもらって書評を書くときは、なるべくブログでは書かないようにしているのだが、きのう送った東京新聞の書評(来週の日曜に掲載予定)ではくわしく書けなかったので、あまり知られていない事実を紹介しておく:今から考えると、リーマンブラザーズに破産申請させた米財務省の判断が致命的な誤りだったことは明らかだが、他に方法があったのだろうか?

リーマンに直接、財政資金を投入することは不可能だった。ポールソン財務長官は、9月初めに行なったファニー・フレディの救済で議会に"Mr. Bailout"と罵倒されており、リーマン救済を議会にはかることは問題外だった。ベア=スターンズの場合のJPモルガンのような受け皿が必要で、財務省やNY連銀のガイトナー総裁は必死にパートナーを探していた。

リーマンにも、いろいろな銀行が買収に名乗りを上げては消えたが、最後に残ったのはイギリスのバークレイズだった。他の銀行にも出資を求め、9月14日にはなんとか話がまとまった。ところが土壇場になって、イギリスのFSA(金融サービス機構)のマッカーシー長官が「買収にはデュー・ディリジェンスと株主総会の決議が必要だ」と言い出した。この手続きには30日以上かかり、とても間に合わない。

そういう手続きを免除する権限をもっているのは財務相だが、ポールソンの回顧録によれば、ダーリング英財務相は「それはイギリスの納税者の負担するリスクが大きすぎる」と断った。このとき彼がバークレイズの買収を緊急に承認すれば、リーマンの破綻は避けられたのだ。

当時イギリスはGDP比ではアメリカより大きな不良資産を抱えており、この利己的な判断はやむをえなかったのかもしれない。また本書も指摘するように、リーマンを救済しても他の金融機関――おそらくはAIG――が破綻して、同じようなことが起こった可能性が高い。しかし・・・などと「もしも」を語ってもしょうがないが、アメリカの金融危機の引き金を引いたのがイギリスの政府だったというのは、ちょっと意外な事実である。