総務省の700MHzワーキンググループが難航しているようだ。当初は「7月中に成案を得る」という予定だったのが、結論は8月に延期された。その最大の原因は、国際周波数に抵抗するITゼネコンと御用学者である。

焦点は、世界標準の周波数に合わせるかガラパゴス周波数にするかという問題で、周波数委員会の主査としてガラパゴス周波数の方向で報告を出した服部武氏(上智大)を含めて、キャリアもベンダーも国際標準化の方向でほぼ一致したが、NTTドコモと富士通とNECだけが国際標準化に反対している。

彼らの理由は「急増するデータトラフィックの伸びに対応するためには早期利用が可能な700/900MHzペアが望ましい」ということだが、関係者によるとこれは表向きの話だという。LTEの半導体はすでノキアやクアルコムなどがつくっており、フィールド実験も終えている。これに対して日本のITゼネコンの対応は大幅に遅れており、国際周波数で競争が始まったら、日本の無線チップは全滅する。だから世界の大手がつくらないガラパゴス周波数で非関税障壁をつくろうとしているのだ。

さらに奇怪なのは、第三者の立場なのにガラパゴス周波数を擁護する伊東晋氏(東京理大)である。彼は「2015年ならばテレビ放送のデジタル移行はもっとゆっくりでもよかったのではないか。切迫していないのなら、国際協調もほどほどでいいのでは」と主張して、FPUの既得権保護を求めている。WGが結論を出せなかったのは、これが原因だと思われる。

周波数を見直すと時間がかかることはわかっているが、2015年にはならない。ITSはまだ割り当てられておらず、FPUは使われておらず、ラジオマイクはUHF帯のホワイトスペースに移行できる。MCAは事業仕分けで民営化して携帯キャリアが買収すればよい。あるキャリアの幹部は、「MCAのサービスはすぐ当社で引き継げる」といっている。たかだか数年の時間を稼ぐために、ここで誤った割り当てを行なうと、向こう10年以上取り戻せない。

要するに「時間がない」というのは、電波鎖国の論理的な根拠がないための逃げ口上なのだ。これはITゼネコンの経営判断としては合理的だが、国内でしか使えない半導体にコミットすると、日本のベンダーもキャリアも世界市場を失い、通信は日本ローカルの産業になるだろう。iPhoneやiPadのようなグローバル商品は日本では使えず、「ガラケー」のコストは海外よりはるかに高くなる。「モバイルクラウド」などのイノベーションにも取り残され、日本のIT産業全体が壊滅するおそれもある。

国際周波数にすれば、日本市場はノキアやクアルコムなどのチップに占領され、ITゼネコンは無線チップから撤退せざるをえなくなるだろう。しかし通信サービスは国際化し、中国などに進出する可能性も出てくる。KDDIやソフトバンクが国際周波数を求めているのも、そのためだ。ドコモが抵抗しているのは、NTTファミリー企業を守る姿勢をみせているのだろうが、実態はドコモのチップもほとんど海外製だ。

世界市場から隔離することでしか生き延びられない日本の半導体メーカーは、コメ農家のようなもので、保護すればするほど弱くなる。ここでいったん電波開国によって競争にさらし、エルピーダのように一から出直した方がいい。幸か不幸か、日本のIT産業にはもう火がついており、「焼け野原」になるのは時間の問題である。