きのうの田原総一朗さんとの対談は、「メディアと政治」というテーマだった。実は私も事前に一つネタを仕込んでいたのだが、田原さんが同じ話を始めたので驚いた。それは、選挙前は朝日から産経まで消費税増税に賛成だったのに、なぜ選挙が終わったら一斉に「消費税が民主党の敗因だ」という話になるのか、ということだ。

田原さんは、これを平河町クラブのエリートと不況に苦しむ地方の差ととらえたが、私は全国紙の社説とワイドショーとの差だと思う。インテリは「欧米では間接税は20%ぐらいになってるんだからしょうがないだろう」と思うが、夕刊紙では「役人が無駄づかいしているくせに増税はけしからん」といった話が圧倒的に多かった。そして国民の多数派は、後者なのである。

ところが首相官邸にいる政治家には、こうした客観情勢が伝わらない。もちろんメディアは見ているのだが、やはり直接あう人々からの「インサイダー情報」のほうが高度な情報だと思ってしまう。これが大きな間違いで、記者クラブの「世論」というのは、特殊な高給サラリーマンの意見なのだ。しかも彼らは永田町の人間関係についてはプロだが、経済政策については素人なので、小野理論にも納得してしまう。

田原さんの話でおもしろかったのは、仙谷官房長官と枝野幹事長が「小野理論はやめたほうがいい」と首相に進言したという話だ。しかし首相は小野氏に洗脳されているので、へたに路線転換すると論理が破綻してしまう。そうこうしているうちに消費税で小野理論は吹っ飛んでしまったので事なきを得たが、朝日新聞は社説で「増税で経済成長をめざせ」とうたい上げて驚いた。

歴代の内閣が増税でつまずく原因は、記者クラブに依存してこのような世論を読み誤ることにある。大多数の大衆にとっては、成長戦略とか外交なんてどうでもよく、関心は税金が上がるかどうかで、政府債務が900兆円か90兆円かもよく知らない。増税するなら、そういうワイドショー的な大衆を説得する戦略を立てないといけないのだが、情報管理を記者クラブに丸投げして報道官もいないから、話が迷走する。国民と政治家の認知ギャップの原因になっているのが、政治家を取り巻く記者クラブというバリアーなのである。