参院選の敗北で、財政再建に向けて動き出した民主党政権の動きは止まりそうだ。「増税の前にやるべきことがあるだろう」というお題目を唱えるみんなの党が躍進したこともあいまって、少なくとも次の総選挙までは消費税は封印されるのではないか。しかし今週の日経ビジネスでもシミュレーションしているように、世界最悪の財政状況で永遠に増税を先送りすることは不可能だ。

プライマリーバランス(PB)を2020年までに黒字化するという政府の控えめな目標を実現するだけでも、名目成長率が1.7%と想定すると歳入が21.7兆円不足する。これを消費税だけで埋めるとすると約10%の増税が必要だが、これはかなり楽観的な数字だ。ここ10年の名目成長率はほぼゼロなので、このままだと消費税を30%以上にしないとPBの黒字化は達成できない。

もちろん歳出を削減すれば財政赤字は減るが、民主党政権の実績をみてもまったく信用できない。かりに10兆円削減できたとしても、消費税は25%にしなければならない。つまり問題は、消費税を上げるべきか否かではなく、いつ上げるかということなのだ。来年上げなければ、そのぶん赤字は積み上がり、10年後に一挙に20%以上も上げることになる。

これは政治的に不可能なので、ロゴフも指摘するように、インフレによって実質的な債務不履行を行なう方法が考えられる。しかしゼロ金利状態では、池尾和人氏も指摘するように、本当に日銀がそういう政策にコミットしたら、債券市場はただちにインフレを織り込んで金利が暴騰し、円は暴落し、high inflationが起こるだろう。マイルドなインフレにコミットすることは不可能なのだ。

いちばん危ないのは、政府がコントロールできない状態で国債バブルが崩壊することだ。ただ藤沢数希氏もいうように、そういう暴力的な「解決」しかないというのが今回の選挙で示された暗黙の民意かもしれない。国民が潜在意識で「焼け跡からの復興」を望んでいるのだとすれば、その費用と便益をまじめに考えてみる必要があろう。

財政が破綻しても人が死ぬわけじゃなし、実質賃金も実質債務も年金の実質受給額も激減し、為替も1ドル=300円ぐらいになれば、輸出産業も元気になるだろう。終戦直後のように数年で立ち直れるなら、ゆるゆると衰退するよりましかもしれない。日本の劣化した政治ではそれが唯一の選択肢だとすれば、外科手術は病気が進行しないうちのほうがいい。