選挙戦では、消費税をめぐる議論が迷走している。首相が「10%への引き上げ」を明言したと思ったら、「逆進的だ」という批判に動揺して戻し税に言及し、それを追及されると「次の総選挙までは増税しない」という昨年の話に戻ってしまった。

消費税は生涯所得で考えれば逆進的ではないし、特定の税だけ取り出して逆進的かどうかという議論には意味がない。所得分配を考えるには、まず分配の現状はどうなっているのかを把握し、それをどう補正するかという目標を明らかにし、それを実現する政策を総合的に考えるべきだ。税はその政策手段の一つであり、消費税はそのさらに一部にすぎない。

まず「小泉改革で格差が広がった」という類の議論は、実証データに裏づけられていない。小塩隆士氏の計量分析によれば、2000年代になって日本の所得分配が不公平化した事実はなく、すべての階層にわたって一様に貧しくなった。

では「公平な分配」とは何か。サンデルも指摘するように、価値観から中立な「正しい所得分配」は存在しない。新古典派経済学の立場からみた効率的な所得分配は、労働の限界生産性に等しい所得だが、これは「結果の平等」にはならない。菅政権のいう「強い社会保障」は、バラマキ福祉の婉曲話法にすぎない。

問題は日本の現状が、望ましい分配(が存在するとして)よりも不公平かどうかである。ジニ係数などであらわされる所得分配はOECD諸国の平均程度であり、それが拡大しているわけでもないが、世代間の不公平は労働生産性とは無関係の年齢による格差であり、ゼロにするのが当然だ。ところがニューズウィークでも紹介したように、日本の世代間格差は世界最大である。

これは鈴木亘氏も指摘するように、自民党政権が年金や老人福祉を増額し、年金の原資を食いつぶしてきたためだ。税が多くの注目を集め、税調などで議論されるのに対して、老人福祉は増額を要求する「福祉団体」との協議で決まり、それを抑制する力が働かない。財務省には財政赤字という歯止めがあるが、年金の原資は数十年でバランスを取ればいいので、厚労省の官僚には財政規律という概念がなく、年金の原資をさまざまな天下り先にばらまく。

このように貧しい若者から豊かな老人に一人あたり数千万円も再分配する世代間で超逆進的な税・年金システムを放置したまま、消費税のわずかな逆進性を議論するのはナンセンスである。所得税を払わない年金生活者が激増する高齢化社会では、彼らにも負担を求める消費税は世代間の不公平是正のために必要であり、基礎年金の財源に充当して年金財政を安定させるためにも必要だ。そして若者の負担を軽減することは、日本経済が活力を取り戻すためにも不可欠である。