また高橋洋一氏が古い嘘を繰り返しているが、まだ信じる人もいるようだ。これについては何度も書いたので、5年前の記事のデータだけ更新しておく。次のバランスシートが今のところ、純債務のわかりやすい最新のデータだ。


2009年度の国のバランスシート(財務省)

政府債務にもいろいろな計算の仕方があって、IMF基準の総政府債務は2015年で1229兆円だが、財務省がよく使う国及び地方の長期債務は1035兆円だ。ただ、これはグロスの数字で、「純債務はもっと少ない」と主張する人々がいる。しかし政府の金融資産のうち、主なものは次の4つだ:
  1. 対外証券投資(主として米国債):91.7兆円
  2. 独法などへの出資金:58.2兆円
  3. 地方自治体などへの貸付金:155兆円
  4. 年金の運用寄託金:121.4兆円
このうち、問題なく「埋蔵金」とみなせるのは、為替介入で買った1だけだが、財源は財投債なので、赤字国債の償還には使えない。2は独法の資本金なので、法改正してその独法を解散しないと返ってこない。3は地方債や政府機関への債権だから、これを取り立てると地方などの財政が破綻する。

年金寄託金は資産どころか、社会保障特別会計と合算すると、約900兆円の積立不足である。これに医療保険380兆円、介護保険230兆円の赤字を足すと、社会保障の「隠れ債務」は1500兆円を超える。OECDやIMFが国際比較に純債務ではなく粗債務を使うのは、資産評価にこうした恣意的な要因が多いからだ。

日銀が国債をすべて買い占めれば「連結ベース」では資産と負債は相殺されると高橋氏はいうが、社会保障特別会計と連結したら、上のような金融資産をすべて清算しても、連結ベース(一般政府部門)の純債務は2100兆円を超す。このうち社会保険料の積立不足は、保険料の値上げか増税でまかなうしかない。

無限に国債を増発して、すべて日銀が引き受ければ「無税国家」ができるが、そんなことがありえないのは、日銀の岩田副総裁のいう通りだ。「金利が上がってインフレになったらインフレ目標で止める」というが、2%のインフレ目標も実現できなかった岩田氏や高橋氏の話を誰が信用するのか。

ただ本質的な問題は国債の消化ではなく、世代間の負担の不公平である。これは増税を先送りするにつれて確実に拡大し、若年層の消費を抑制する効果は無視できないだろう。