拝金今週のUstream討論のとき、著者にもらった本。会社を興してからライブドア事件までの経緯を小説仕立てで書いたもので、小説としては稚拙でディテールの書き込みが足りないが、あの時代の一つの記録としてはおもしろい。特に興味あるのは(事実かどうか知らないが)、ニッポン放送買収のきっかけが、リーマン・ブラザーズのMSCB引き受けだったとういう話だ。

これを読んで思い出したのは、20年前に起こったドレクセル事件だ。これは映画「ウォール街」のモデルになった事件で、映画で"Greed is good"といっていた主人公、ゴードン・ゲッコーのモデルになったのが、投資銀行ドレクセル・バーナム・ランベールのトレーダー、マイケル・ミルケンである。彼の開発したジャンク債などの金融技術によって、ドレクセルはMCIやマッコーセルラーなどの新興企業のLBOのスポンサーになって巨額の手数料収入を上げ、ミルケンの年収は5億ドルを超えた。ライブドア事件では、リーマンがその役割を果たしたわけだ。

インサイダー取引の容疑でミルケンなどを検挙したのが、当時のNY州連邦検事、ルドルフ・ジュリアーニ(のちのNY市長)だった。この事件は当時のアメリカでも「拝金主義」として批判を浴び、小説や映画の素材になった。ライブドア事件では、ジュリアーニ検事の役が大鶴特捜部長だろう。ジュリアーニがこの事件を摘発したのは、市長選に出馬する政治的意図があったといわれるが、大鶴氏の出世主義も似たようなものだ。

ミルケンがインサイダー情報を利用してもうけていたことは事実だが、経済学の観点からはインサイダー取引に刑事罰を科す意味は疑わしい。ミルケンの開発した金融技術のおかげでアメリカの資本市場は活性化し、投資銀行が「恐竜」化した古い大企業を買収して解体することによって生産性が上がった――というのがHolmstrom-Kaplanなどの実証研究の結論である。アメリカ経済を蘇生させたのは「IT革命」ではなく、株主資本主義だったのだ。

アメリカの場合は、ドレクセルが倒産した90年代前半には企業買収の件数は一時的に減ったが、その後はふたたび活発化した。日本では企業が買収防衛策を強化するなどM&Aを押さえ込む傾向が強まり、資本市場はほとんど機能していない。このため企業の新陳代謝が進まないことが、日本の成長率が低迷する最大の原因である。

民主党政権が「行き過ぎた市場原理主義」を嫌悪して「株主を重視しすぎた風潮に喝を入れたい」などという愚劣な話をしているかぎり、どんな「成長戦略」を作文しても成長率は上がらない。ライブドア事件で日本が失ったものは大きく、もしかすると日本経済は永遠に立ち直れないかもしれない。