孫正義さんと夏野剛さんとの鼎談が終わった。内容は予想どおりだったが、孫さんが私のブログ記事を全部読んで130ページものプレゼンテーションを持ってこられたのには驚いた。こういうサプライズを演出するところがうまいと思った。



私の疑問に思っていたアクセス回線会社の分離方式については、「AT&T方式」ということで明快な回答があった。しかしこれだと公開会社なので、その経営方針は株主が決めるため、ソフトバンクの全面FTTH化が実施されるかどうかはわからない(これは孫さんも認めた)。逆にソフトバンクの計算が100%正しければ、構造分離しなくてもNTTの株主は全面FTTH化を選ぶだろう。つまりFTTH化と構造分離は別の問題なのだ。この点は私より夏野さんのほうが孫さんに食い下がって、論点が明確になった。

Ustreamを見ていただくとわかるが、実は95%ぐらい3人の意見は一致している。一致していると番組としてはおもしろくないのだが、一致点のほうが重要だ。それは来月にも方針の決まる周波数割当がきわめて非効率で不公正だということである。孫さんは「われわれが数千万人を収容しているよりもいい周波数を使って、数十万人しか使っていない特殊法人、MCAは説明責任を果たせ。理事長以下、役員はみんな天下りじゃないか」と指摘した。このように電波をもらう立場の企業が電波部を公然と批判したのは画期的だ。

私も今回の討論にそなえてNTTの役員や社員に取材したのだが、みんな「まったくナンセンス」ということで一致していた。これはほとんど感情的な問題で、「通信の素人のくせに」とか「ヤクザだ」とか、NTTの社員はみんなソフトバンクが大嫌いだ。これだけインカンバントに嫌われるというのはすごい。破壊的イノベーションというのは闘いなので、持続的イノベーションの側に好かれるようではだめだ。

・・・ということで、私は孫さんの応援団なのだが、NTTの構造分離だけはいただけない。本来の意味でのstructural separationは、スタンダード石油とかAT&Tとか100年に1度ぐらいしかなく、AT&Tの場合は失敗に終わった。公開会社に全面FTTH化を義務づけるためには、NTT法で規制しなければならない(これも孫さんが同意した)。政府が義務づけておいて、失敗したら税金を投入しないというわけにはいかないだろう。ブロードバンドのようなイノベーティブな業界に、政府がこのように強く介入するのは危ない。

なお部分的な話だが、VHF帯の「美人投票」が来月、決着する。ドコモ=フジテレビ組とKDDI=クアルコム組が残っているが、電波部は前者に内定しているようだ。これは驚いたことに、2.5GHz帯でドコモを落としてウィルコムに免許を与えるのと「バーター」だったという。だから2.5GHz帯で免許をもらったKDDIが本気にならなかったのは当然だ。ところがドコモもフジテレビも本気ではなく、電波部が「クアルコムを締め出すためにISDB-Tでやれ」とドコモに命じたのだという。

これが日本の電波行政である。そして電波部の守っているレガシー免許人こそ、日本の情報革命を阻害している――成長率を低下させている――張本人なのだ。これを突破する「電波ビッグバン」が緊急の問題だという点でも、3人の意見は一致した。