来年度予算で国債の発行額を抑えるために、子ども手当(月額2万6000円)を減額する案が浮上してきた。その代わりに保育所の建設などの「現物支給」で補うという案が出ているが、ニューズウィークでも指摘したように、これは悪くないアイディアである。今のようなバラマキではなく、幼児教育に限定した保育バウチャーにすれば、子ども手当を成長戦略に役立てることができる。

日本の幼児教育への公的支出のGDP比は、OECDによれば加盟国で韓国に次いで2番目に低い。民主党が選挙で主張したのは「フランスのように幼児への公的支援を増やせば出生率が上がる」という話だったが、これはナンセンスである。欧米諸国が幼児への支出を増やしたのは、保育施設を増やして女性の就労を支援するのが目的で、これが結果的には安心して子供を産めることにつながり、出生率の上昇に結びついたのだ。保育所に待機児童が列をなしている状況で、無原則に親にばらまいても出生率は上がらない。

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幼児教育は、人的資本への投資という観点からみても効率的である。Heckmanなどの研究によれば、図のように教育投資に対する収益率は就学前の幼児期がもっとも高く、大人になってからの職業訓練は効率が悪い。脳科学の研究では言語習得などの効率は幼児期がもっとも高く、追跡調査でも幼児期の教育の差が大人になってからの学力や所得に影響を及ぼす。このため幼児教育は労働生産性を引き上げる成長戦略と位置づけられ、幼児教育の無料化や就学年齢の引き下げなどの政策がとられるようになった。

ところが日本の保育所は、複雑な規制に守られて80万人ともいわれる待機児童を放置し、単に子供を預かるだけで教育はほとんどしていない。イギリスのように就学年齢を5歳に引き下げれば、小学校で問題になっている空き教室が埋まり、他方で待機児童も解消できよう。来月、OECDの調査団が来日して日本の子ども手当について調査し、このような改革についても議論するという。