ニコニコ動画で、事業仕分けについての討論会に出演した。仕分けの作業を4日間すべて中継しただけでなく、深夜まで討論会を開き、こんなまじめな番組を1万3000人も見に来るとは、ネットメディアも変わったものだ。やっていて、20年前のNHKのBSの立ち上げのころを思い出した。


それまで総合・教育テレビの同時放送をやっていただけの衛星放送を、島会長(当時)が「600億円もかけて同時放送を流しているのは無駄だ。モア・チャンネルにしてもうけろ」と号令をかけ、まったく要員を増やさないまま、いきなりチャンネルが2倍になったので、各部署から、私も含めて要員がかき集められた

とはいえ、初期のBSの視聴者は小笠原など数十万人で、ニコ動みたいなもの。数千万人を相手にする総合テレビから行った人々は意気が上がらず、キャスターを命じられた木村太郎さんは辞めてしまった。おまけに初期のスタッフは50人ぐらいしかいなかったので、2波48時間はとても埋まらない。

長くて安い映画をたくさん買ってきて流したり、大相撲を幕下からすべて中継したり、将棋の名人戦を1日中継するなど、とにかく長時間を埋めるコンテンツを買ってきた。その代わり誰も見ていないから自由にやれて、AV女優が生放送に出演して「BSのアンテナは空に向かって広げた****でございます」と発言したこともあった。

思えば、あのころのNHKは活気があった。記者とディレクターの枠を超えて「NC9」や「NHK特集」などの新しいスタイルの番組ができ、BSの番組はほとんど外注した。それまでNHKの番組は100%職員がつくるものだったが、それでは埋まらないので、外部のプロダクションを使ったり、演出やリポーターを外部から雇ったりするしかなかったのだ。それが結果的に、番組の活性化とコスト削減に結びついた。

ニコ動が事業仕分けを完全中継したのもおもしろい。自民党時代には、政治は族議員や官僚や業界団体など「プロ」の決めるものだというシニシズムが国民に広がり、誰も政治に関心をもたなかったが、事業仕分けによってよくも悪くも政治がアマチュア化し、納税者としての意識に国民が目覚めるきっかけになった。

世界的には、政治はウェブでもっとも人気のあるテーマだ。たとえばTechnoratiのランキングでも、トップのHuffington Postをはじめとして「政治」のジャンルがもっとも多い。民主主義が機能すれば、政治はエンタメとしてもうかるビジネスなのである。

ニコ動も、初期に比べると画像も安定し、スタジオにもマルチカメラが入って、ちゃんと台本や打ち合わせがあり、よくも悪くもNHK化してきた。NHKの場合は島会長が失脚して、海老沢時代以降の「失われた20年」が続いているが、ニコ動は初期のBSがもっていたイノベーターの魂を持ち続けてほしい。