今週のEconomistの特集は、「新興国のイノベーション」。新興国にイノベーションなんかあるわけないじゃないか。先進国のものまねで安物をつくってるだけだろ――と思っている人は、かつて日本車を「おもちゃ」と笑ったアメリカ人と同じ運命をたどるだろう。

かつての日本の役割を演じているのは、中国やインドやブラジルだ。そこで生まれている製品は、先進国のような高機能・高価格の「持続的イノベーション」ではなく、3000ドルの自動車や300ドルのPCなどの「破壊的イノベーション」である。そこには――かつての日本車がそうであったように――新しい技術は何もない。あるのは、新しい市場に適応した最小限度のスペックと低価格、そして携帯電話でつながった労働者のネットワークによる効率的な生産だ。

先週のメールマガジン「イノベーションの法則」でも書いたように、イノベーションの本質は技術の改良ではなく、パラダイム転換である。新興国は、その膨大な人口、低い所得、信頼性のないインフラ、低賃金といった新しいパラダイムに適応して、不要な機能を捨てる新しいタイプの製品や流通システムを生み出しているのだ。これをEconomist誌は質素イノベーション(frugal innovation)と呼んでいる。

このパラダイム転換の犠牲になるのは、日本だろう。たとえばソフトバンクの提案している「光の道」プランは、FTTHを山間部や離島まで引こうという「豪華イノベーション」の一例だ。このネットワークには、iPadはつながらない。そこにはもうイーサネットの端子がないからだ。いま途上国では、電話もない地域に無線ネットワークを引く質素イノベーションが起こっている。そのほうが1軒ずつ線を引くよりはるかに安くて速いからである。