マルコム・マクラレンが死んだというので、久しぶりにセックス・ピストルズの"Never Mind the Bollocks"を聞いてみたが、とても3分以上は聞けなかった。ほとんどメロディのない曲をジョニー・ロットンががなり立て、騒音のようなギターの単調な伴奏が続く。これは「パンク・ロック」の最初でも最良の作品でもなかったが、その後に続いたクラッシュやジョイ・ディヴィジョンなどは「ニュー・ウェイブ」としてロックを変えた。

ピストルズがあれほど大きなインパクトを与えたのは、音楽的内容ではなく、彼らを時代の象徴に仕立てたマクラレンのプロデューサーとしての手腕によるところが大きい。1976年のイギリスは不況のどん底で、インフレ率は23%、若年失業率は33%という状態だった。4文字言葉を連発し、女王を侮辱したピストルズは、こうした閉塞状況への若者の異議申し立てとして、圧倒的な支持を得たのだ。

そして1979年の鉄道や病院や警察まで含むゼネストで経済が完全に麻痺した「不満の冬」にこうした怒りが爆発し、サッチャー政権が誕生した。BBCは「われわれはみんなマクラレンとサッチャーの子供だ」という同世代の評論家のコメントを紹介している。それに比べて、ピストルズもサッチャーも出てくる気配のない日本は、まだ幸せなのだろうか。それとも若者が鈍感なのだろうか。