アメリカで「法と経済学」のスタンダードになっているShavellの教科書の邦訳が出た。880ページという分量と9765円という値段は、研究者以外にはきびしいと思うが、内容はそれほどテクニカルではない。いい加減な教科書を何冊も読むより本書をちゃんと読めば、法学と経済学のフロンティアが理解できる。法学プロパーの部分はアメリカに固有の制度の解説が多くて退屈だが、本書の白眉は「情報の財産権」を論じた第7章だろう。著者は「知的財産権」という言葉を避け、そもそも情報に財産権を設定すべきかという問題から出発する。特に彼のオリジナルな業績である報奨制度など、特許や著作権に代わる制度設計を検討している部分は、「権利強化」ばかりやろうとしている文科省の官僚には読んでほしいものだ。
著者も論じているように、情報利用の効率性とインセンティブは分離可能なので、理論的には、包括ライセンスや「コンテンツ税」など、特許や著作権より効率的な制度は可能である。しかしそれを実施するには、政府の特許買い取りなどのenforcementがどうしても不可欠だ。このため本書と並ぶ教科書であるLandes-Posnerは、報奨などの「集権的制度」を否定している。
デジタル技術革新はほとんど飽和してきたが、「知財」の分野は300年前の制度が残っている。さらに著作権保護期間の延長など状況はさらに悪化しているが、ベルヌ条約など現実の制度の硬直性を考えると、抜本改正は向こう50年ぐらいは無理かもしれない。ただ日本ローカルな改正は可能なので、たとえば「著作権特区」のような特例法でコンテンツ流通を促進することはできる。しかし首相が「著作権の保護期間を死後70年に延長するために最大限努力する」などと約束する鳩山政権では、改革は絶望的である。




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コメント一覧
「国の買い取り」や「報奨」と聞くとかつて社会主義国で行われていた発明者証のようですが、そのような制度は、情報の価値の高低が考慮されてないのがまずいです。JASRACのように権利者がタダで権利を預けて、その権利を預かった管理団体が権利行使して、お金を取り立てて権利者に分配する制度の方が良いでしょう。権利は強力な排他権ではなく請求権でもいいのかもしれません。
あと、少なくとも特許の保護についてはWTOのTRIPS協定28条で排他権を与えることになっているので、条約の義務上、日本ローカルで「特区」なるものが可能かは疑問です。