アップルが27日に、話題のタブレットPCを発表するようだ。これにコンテンツを提供する出版社や新聞社の噂も流れているので、おそらくiTunes Storeで販売することは間違いないだろう。これで業界1位のアマゾン、2位のソニーに続く有力な電子書籍プラットフォームが出てくることになる。

ソニーも「デイリーエディション」という新端末で、この分野の主導権を取ろうとしているが、現状のままではは国内販売できないというハンディキャップを抱えている。文芸家協会などの反対で、ソニーがプラットフォームとしているGoogle Booksが日本では使えなくなったからだ。

他方、出版社は業界団体をつくるなど、予防線を張ることばかり熱心だが、彼らがいくらカルテルを組んでも、アマゾンが著者と直接交渉するのを防ぐことはできない。日本の著作権法では、出版社に著作隣接権がないからだ。再販制度も電子出版には適用されないので、電子出版専業のベンチャーが出てきて、出版社を「中抜き」して著者と交渉してアマゾンに仲介すれば、こんなカルテルは崩れるだろう。

インターネットによって新聞や雑誌が打撃を受けたのに対して、書籍への影響が相対的に軽微だったのは、モニターで数百ページも読むのが生理的に困難なためだが、この問題は電子端末で解決された。残るのはそこで読める本がないという問題だけで、これを解決するもっとも簡単な方法は、著者が自費出版することだ。たとえば当ブログの過去ログをまとめて書籍化すれば、そのまま売れる。

これによって著者と出版社の関係も大きく変わる可能性がある。日本の印税は一律10%で、例外は人気作家に限られるが、アマゾンのキンドルでは著者の取り分は自由に設定でき、平均35%ぐらいだという。これも自分でPDFファイルにして提供すれば著者がもっと取れる。

1500円の本が10%の印税で1万部売れても150万円にしかならないので、著述業で生活するのは困難だが、電子出版で同じ本を150円で売れば、10万部ぐらい売れるかもしれない。その80%を著者が取れば、1200万円だ。電子出版は既存メディアを殺すかもしれないが、著者を豊かにし、多くのクリエイターを生み出す可能性がある。

電子出版でもっとも恩恵を受けるのは、学術書だろう。ほとんどの専門書は数百部しか売れず採算がとれないので、初版の印税なしとか著者が一定部数買い取るなどの条件で出版してもらう。それも絶版になったら図書館以外では読むことができないが、電子出版なら拙著のように、絶版になってもウェブで本を出せる。

自費出版の最大の問題は、ブランドである。通常の本は有名な出版社がリスクを負って売ることによってその価値をシグナルしているのだが、自費出版ではアマチュアのトンデモ本と本物の学術書の区別がつかない。これを審査するレフェリーをつけた電子出版プラットフォームができれば、手数料を20%とるだけでも十分ビジネスになるだろう。

問題は技術でもコストでもなく、出版業界の秩序に挑戦するベンチャーが出てくるかどうかだ。既存の出版社は紙の書籍との「共食い」を恐れて大胆な価格設定ができないが、独立系や他業種からの参入ならそういう障壁はない。文芸家協会も権利者の代表を自称しているだけなので、そこに加入していない圧倒的多数の著者は自由に権利を譲渡できる。日本でも、そういう著作権エージェントは出てこないだろうか。誰もやらないなら、私がやってもいいけど。

追記:アマゾンは、日本でも自費出版サービスを始めるようだ。