首相官邸の関係者から「鳩山さんの読書リストをどう思いますか?」という質問を受けた。「ネオリベラリズム」や「新自由主義」を攻撃するくだらない本を読むのは時間の無駄だし、原丈人氏やジャック・アタリは感心しないが、株主資本主義に対するアンチテーゼを出したいという彼の問題意識はよくわかる。それならこういう本じゃなく、まず企業統治についてのオーソドックスな本を読んだほうがいいと思う。
  • 全体的な解説書としては、ラジャン=ジンガレスがいいだろう。短絡的な「市場原理主義」批判はアメリカにも多いが、それに対して資本主義の長所を明らかにする一方、「資本家から資本主義を守る」(原題)ための制度設計を考えるものだ。
  • オバマ政権の政策に近いのは、鳩山氏のリストにも入っている『暴走する資本主義』だ。このタイトルは誤訳で、原題はSupercapitalism、つまり株主資本主義を超えて消費者と投資家が「直接統治」する世界を描くもので、日本の政治には役に立たないがおもしろい。
  • 日本の状況については、『M&A国富論』が参考になる。これは株主資本主義を批判して、会社が株式としての面と法人としての面の「2階建て」になっていると考えるものだ。ただし著者の法人実在説には批判も多い。
  • 各国の会社法を比較したのがHansmann et al.で、日本の部分は東大の神田秀樹氏が書いている。
  • 労力を惜しまないのなら、この分野の標準的な教科書はTrioleで、ほとんどの論点を厳密に網羅している。企業統治を概説した第1章はPDFで読める。
狭い意味での企業統治についての議論はほぼ決着がついており、企業コントロール権は株主だけに与え、それ以外のステイクホルダーの権利は契約や規制で保護することが効率的だというのがコンセンサスである。

ただ、これは経済的な効率だけを基準にした場合の話で、社員が賃金よりも生活の安定に価値を見出す場合、MBOやEBOで労働者管理にすることも選択肢だろう。また地域のコミュニティを重視する場合には、消費者協同組合のようなNPOも考えられる。いずれも効率は株主資本主義に劣るが、経済的な富以外の目的を明確にするなら、こうした非営利のガバナンスも検討対象になる。

民主党が株主資本主義を超えるコンセプトを確立しようとするなら、「従業員参加で労働分配率を上げる」などという陳腐な話ではなく、こうした企業統治についての深いレベルの議論が必要だろう。ただしこうした議論はむずかしく、学問的にはまだ結論が出ていない。日本の現状では、まず普通の株主資本主義を実現することが第一ではないか。

追記:政策立案の役には立たないが、資本主義の運命を歴史的に考察した『マックス・ヴェーバー入門』は、たぶん首相の好みにあうと思う。