日本でも大ベストセラーになった『ブラック・スワン』に続いて、今年中に出るといわれるタレブの新著、"Tinkering"の草稿の一部が、彼のツイッターで公開された。ランダムなメモなので非常に読みにくいが、私が解読した範囲で簡単に紹介しておこう(日を追って逆順に書かれているので、最後から読んだほうがわかりやすい)。

本書のテーマはイノベーションで、タレブはそれをtinkering(いじくり回し)と呼ぶ。イノベーションは、科学的発見に似ている(これは当ブログでも論じた)。それは論理実証主義の考えるような「帰納→理論→演繹」といった機械的な手続きで行なわれるのではなく、科学者の発見した仮説を検証(反証)するものだ。では、その仮説はどうやって発見されるのか。そこには論理はないのか――これは分析哲学の最大の難問である。

タレブはこの「ポパー的問題」を、事実をいろいろな角度からいじくり回す試行錯誤によって解く方法論を考えている。このようにイノベーションを発見のプロセスと考えるのは、彼もいうようにミーゼスやハイエク以来のオーストリア学派の伝統である。タレブも無秩序や不均衡を既存の理論で「プラトン化」しないで、ありのままにいじくり回せと助言する。

非効率性や冗長性はイノベーションの源泉だから、それを合理化してはならない、というタレブの議論は、ポパーというよりファイヤアーベントの知的アナーキズムを思わせるが、ここからどういう結論にたどりつくのかは、まだわからない。内容の感じをつかむには、次の表がわかりやすいだろう。TYPE1がタレブ的モデル、TYPE2がプラトン的モデルである。

taleb