このごろ証券会社の営業がすすめる投信に、日本株がまったくなくなった。民主党は日本が「株主至上主義」だと思っているのかもしれないが、先進国で最低のパフォーマンスしか出せない日本株には、証券会社も愛想をつかしたようだ。その代わり、彼らがすすめるのは中国、ブラジル、インドなどの新興国株である。

この背景には、金融危機で各国政府や中央銀行が金融機関に巨額の資本増強や資産の買い取りを行なった結果、世界的な資金過剰が生じている状況がある。先進国の金利は1%を下回り、ドルにペッグしている新興国も金余りに巻き込まれている。キャリー取引がまた始まり、オーストラリア・ドルへの投資が人気だ、とEconomistは報じている。

株価は昨年3月の最低水準から70%も上がり、特にブラジル・中国・インドの株価は2倍以上になった。こういう国々が長期的に成長することは事実だが、それがこのような短期的な値上がりを正当化するとは限らない。かつてのITバブルのように、投資家は将来の成長を過剰に先取りする傾向が強い。「今回の経済危機を契機に、世界経済の中心は新興国に移った」という物語が正しいほど価格は上がり、それが物語の信憑性を補強するループが生じるのだ。

他方で長短金利差は拡大し、米国債では4%に達している。これは財政赤字の拡大によるリスクプレミアムと考えられるが、各国政府は「二番底」を恐れて財政支出を削減できない(日本の1997年の誤った教訓が「学習」されている)。しかしギリシャなどから破綻の兆候が見えている。資金過剰を支えている政府の景気刺激策が維持できるのは、国債を市場が低利でファイナンスしてくれるかぎりにおいてだが、それは限界にきている。

バブルは、それが崩壊したあとで同定するのは簡単だが、進行中に「これはバブルだ」と判断することはむずかしい。今がまさにそういう状況だ。新興国でも政府債務でもバブルが増殖している疑いが強いが、それがバブルだとは断言できない。新興国は何事もなく成長を続けるかもしれないし、各国政府は財政赤字をコントロールできるかもしれない。しかしマーケットが「これはバブルだ」と思った瞬間に、それはバブルになるのである。

このような危険な状況になっっても、「日銀はもっとめちゃくちゃに金融を緩和しろ」と騒ぐ人がいるが、白川総裁も危惧するように、これ以上の金融緩和は新興国のバブルを拡大して破滅的な結果をもたらすリスクが大きい。新興国バブルが崩壊すると、現在の回復を支えている新興国の資金が止まり、全世界が巨大な「二番底」に陥るだろう。グローバル経済の中では、金融政策もフリーランチではないのである。