けさの朝日新聞で、1ページにわたって浜矩子氏が、また「ユニクロ型デフレ」を指弾している。毎日新聞の新春座談会にも出て、文藝春秋にも大きく出ていた。不況になると保護主義に人気が集まるのは、左右を問わないようだ。

浜氏の議論がナンセンスであることは、アゴラでも論じたので繰り返さないが、彼女の話は自分で信じているほど新しくない。保護主義はアダム・スミスの昔からある主張で、労働組合が「**の低賃金労働がわが国の雇用を奪っている!」と関税引き上げや資本移動規制を求めるのも毎度おなじみだ。違うのは、かつて**に入るのは日本だったが、最近はここに中国が入ったことである。

ただおもしろいのは、かつては米政府が日本の「不公正貿易慣行」を攻撃してスーパー301条などの露骨な輸入制限を主張したのに対して、浜氏の保護主義は「99円セーターを買うな」というシャイなものであることだ。しかし彼女が99円セーターの輸入が悪の元凶だと信じているのなら、なぜ関税の引き上げを主張しないのだろうか。この点では「[大企業が]税金の安いところに国籍を移すとしたら、その姿勢やモラルを社会は許容すべきではありません」と海外移転の規制を主張する湯浅誠氏のほうが論理的である。

こういう「空洞化」や「底辺への競争」への攻撃は、最近も「反グローバリズム」運動で主張されているが、バグワティも指摘するように、彼らの見ているのは幻である。
  • グローバル化は職を奪うのではなく、比較優位の部門への労働移動をうながす。先進国が知識集約的な部門やサービス業に特化すれば、全体としての雇用は維持でき、所得は高まる。自由貿易が世界の富を増やすことは、ここ200年の歴史が証明している。

  • 新興国と競合する単純労働の賃金が下方への圧力を受けることは事実だが、実際には賃金の下方硬直性があってそれほど下がっていない。むしろこのように賃金や労働移動の調整が遅いことによって日本企業の国際競争力がなくなり、不況をまねいている。

  • 工場が中国に移っても、本社が日本にあるかぎり、利潤は日本に還元され、GDPは高まる(したがって雇用も増える)。もっとも危険なのは、日本が租税競争に敗れて本社が海外に移転することである。
保護主義は、どこの国でも人気のある「一段階論理」で、特に労組をバックにもつ民主党がそういう主張を行なってもおかしくない。それが日本で出てこないのは、たぶん日本が「貿易立国」で成長をとげてきたという体験によるものだろう。しかし実は、バグワティも指摘するように「食の安全」などを誇大に騒いで新興国からの輸入を妨害しようとする「隠れた保護主義」は広く見られる。日本経済がいよいよ追い込まれると、それが露骨な保護主義として表面化するリスクは小さくない。