政府が「2020年に名目GDP1.4倍に、名目3%、実質2%成長」という目標を掲げた新成長戦略を発表した。目的を掲げただけで実現できるなら、誰も苦労はしない。問題はそれをどうやって実現するかだが、民主党政権では無理だろう。成長率を高める大局的な戦略が示されておらず、環境・健康・観光などの個別産業に補助金を投入する古めかしいターゲティング政策が並んでいるからだ。

記者会見で鳩山首相は、小泉政権が「市場原理主義」だったとして「供給サイドに偏っていた今までの活動を改め、需要を創出していく」との方針を示したそうだが、彼は需要と供給という概念を理解していないようだ。たとえば今度の成長戦略にある「食料自給率を50%、木材自給率を50%以上に引き上げ、農林水産物などの輸出額を現在の2.5倍の1兆円にする」という目標は、典型的な供給の都合による政策である。

いま市場で売られる木材のうち76%が外材だが、この比率を50%まで下げるには、コメのように関税を引き上げるしかない。これによって木材の価格は上がり、林業を営む供給側は潤うが、住宅価格などは上がって需要は減退するだろう。つまりターゲティング政策は政府が特定の産業を補助する保護主義であり、需要を考えないで供給を増やす政策なのだ。その結果が何をもたらすかは、「自給率」を旗印にして保護政策が続けられてきた農業に明白に示されている。

ターゲットが環境になろうと医療になろうと同じことだ。マイケル・ポーターも指摘するように、政府が特定の企業を保護する政策は、企業のインセンティブをゆがめ、競争を制限して国内市場を海外から隔離し、結局はその産業をだめにしてしまうのだ。その典型が、政府が手厚く保護した航空・宇宙産業である。世界の最先端といわれる環境技術も、政府の作り出す環境バブルで壊滅するおそれが強い。

成長率を引き上げる最大のエンジンは、雇用を流動化して労働生産性を引き上げる労働市場の改革だが、成長戦略の文書には労働市場という言葉さえなく、「若者・女性・高齢者・障害者の就業率向上のため就労環境整備に2年間集中的に取り組む」としか書かれていない。それは雇用対策であって成長戦略じゃないだろう。需要と供給の区別も、短期と長期の区別もつかないアマチュア政権が続くかぎり、来年も日本経済の停滞は続く。