次世代スパコンをめぐる騒動では、ノーベル賞受賞者がそろって官邸に殴り込み、鳩山首相は例によってぶれている。しかし行政刷新会議の事務局は「彼らは中身を知らないで騒いでいるだけだ」として、公開討論会を開催することになった。いい機会だから、日本の「科学技術立国」にとって何が必要かを徹底的に議論してもらいたい。

日本のIT産業が立ち直るために必要なのは、1200億円もの税金をつぎこんで「世界一」高価なハコモノをつくる物量作戦ではなく、低価格で高性能を実現するイノベーションである。今週のEconomist誌は、米空軍のスパコンにソニーのPS3のCPU「セル」が2200台使われることを報じている。世界第2位のスパコンであるIBMのRoadrunnerには、12960台のセルが使われている。

スパコンとは、世間で誤解されているように「すべてのコンピュータの頂点に立つスーパーなコンピュータ」ではなく、超並列処理を行なう(世界で年間数十台しか売れない)特殊なコンピュータにすぎない。そこから「民生用に応用できる先端技術が生まれる」という理研の野依理事長の話は逆で、民生用のCPUのほうがはるかに費用対効果が高いので、それを多数つないでスパコンをつくるのが今の常識だ。

ゲーム機は画素ごとに並列処理を行なう点でスパコンと同じだから、そのCPUを多数つなげば専用スパコンよりはるかに低コストで汎用性の高いマシンができる。これから3年もかけて富士通が専用CPUを開発する理研のプロジェクトはナンセンスで、3年後にはムーアの法則によって民生用CPUの性能は4倍になるので、そのとき最新のCPUを秋葉原で買ったほうがいい。

既存の技術の延長上で、いくら高性能・高価格の製品をつくっても世界には売れない。それが日本のIT産業の沈没した最大の原因だ。Roadrunnerは、1PFLOPSで1億ドル。2012年には理研より高性能の10PFLOPS機が稼働する予定だが、その価格はムーアの法則で割り引くと、1億ドル×10÷4=2.5億ドル。つまり220億円もあれば、理研のスパコンと同じ性能が実現できるのだ。イノベーションとはこのようなパラダイムの転換であり、役所がITゼネコンに税金をばらまいてもイノベーションは生まれない。

理研のスパコンの見直しは、ITゼネコン構造を打破して真のイノベーションを生み出す産業構造に転換するための天王山である。行政刷新会議は、巨額の機材を随意契約で発注した調達の経緯や、NECが「1社入札」で落札した地球シミュレータ後継機との関係など不透明な構造を解明し、これを機会に政府のIT調達を全面的に見直すべきだ。