きのうの記事におもしろいTBをもらった。たしかに今度の政権交代は、明治維新というより幕末の混乱に似ていると思う。今の民主党は、反グローバリゼーションや規制強化を求める「尊皇攘夷」派と、構造改革の継続を求める「開国」派に分裂し、鳩山首相がイニシアティブを発揮しないために政策が迷走している。

しかし明治維新との最大の違いは、今度の「黒船」は東ではなく西から来ているということだ。日本にとって最大の脅威は中国である。日米同盟が続くかぎり、軍事的に中国が日本を征服することはないだろうが、経済的には今年、中国はGDPで日本を抜き、2026年にはアメリカを抜いて世界一の経済大国になると関志雄氏は推定している。

思えば日本は1000年以上にわたって、中国の衛星国家の一つにすぎなかった。この140年ぐらいは逆転したが、これは中国の政治的不安定に助けられた面が大きい。今も社会主義という制約は残るが、台湾や韓国のように経済的に安定すれば一党独裁はなくなるだろう。経済面では、すでに社会主義というより「国家資本主義」といったほうがいい。中国が普通の国になれば、規模でも政治力でも日本はとてもかなわない。

中国が日本に追いつき追い越す過程で起こるのは、生産要素(特に労働)の移動と賃金の均等化だ。中国より高い賃金で生産している産業は没落し、非貿易財やサービス業に労働人口が移動せざるをえない。これによって単純労働者の賃金は中国に鞘寄せされ、グローバルな格差拡大の傾向が日本でも出てくる。いま「格差」と騒いでいるのは中高年社員と非正社員の差にすぎないが、そのうちすべての年代で技能労働者と単純労働者の所得格差が拡大するだろう。

最大の問題は、経済的な力関係の逆転だ。今は日本に本社機能があって中国に工場が移転するという関係だが、今でも日本の高い法人税をきらって本社を海外移転する企業が出ている。そのうち人民元が変動相場制に組み込まれて切り上げられると、東アジア経済圏は「人民元圏」になり、本社機能を中国に移す企業が増えるだろう。このような中枢機能(コントロール権)が資本主義のコアであり、これが中国に移動すると、投資も利益も中国に集中することになる。

こういう盛衰は、どこの国も経験したことであり、いったん衰退の坂を転がり始めてから元に戻った例はほとんどない。唯一の例外はアメリカだが、これは若い国だからで、日本や欧州のように長い歴史があると既得権に足をひっぱられ、立ち直るのはむずかしい。日本が中国の「支店」になる流れは、長期的にはたぶん避けられないだろう。

だから「アゴラ」でも書いたように、日本が成長戦略を考える場合、まずこのグローバルな変化にどう対応するかという長期戦略を立て、その上で日本の成長率を上げる中期戦略を考える必要がある。雇用とかデフレはGDPの従属変数なので、成長率を上げないで短期の財政・金融政策ばかりやっても効果がない。「無駄の削減」だけで財政を再建することはできないし、GDPを上げないで「まずデフレを止めよう」なんて不可能なのだ。

明治維新との最大の違いは、こういう長期的なビジョンをもった政治家がいないことだ。幕末にも、日本が侵略される危機はそれほど切迫していたわけではないが、それを見通して手を打った政治家がいた。個人的には民主党内の開国派に少し期待しているが、これも今の「小沢体制」では動きがとれないだろう。あと何度か選挙して政党が政策にそって再編され、危機が顕在化して世論が本気で改革を求めることを期待するしかない。

追記:コメントで教えてもらったが、Economist誌も、日本がデフレを脱出するには成長率を引き上げる政策が重要だと助言している。