菅直人副総理(国家戦略室担当)に対して、勝間和代氏「まず、デフレを止めよう」と題したプレゼンテーションを行なったようだ。その内容は出来の悪い学生の答案みたいな感じだが、これが国家戦略に影響を及ぼすとなると放置できないので、少しコメントしておこう。

まず勝間氏は「日本はデフレスパイラルの真只中にあることを再認識して下さい」(p.2)と題してグラフを出し、「※OECD定義によれば、「デフレ」と「デフレスパイラル」は同義です」と書いている。このOECDの定義とは何を意味するのか不明だが、たとえばOECDが財務省に行なった説明では、
Persistent deflation may degenerate into a deflationary spiral of falling prices, output, profits and employment.
と書かれている。この文でdeflation=deflationary spiralと置き換えると意味をなさないだろう。デフレ・スパイラルとは単に「デフレが続いている」ことではなく、デフレが実質債務や実質賃金の増加をもたらしてデフレを加速する現象で、彼女のあげているグラフには、その証拠は示されていない。

「インフレ率と失業率のバランスは、高度の政治的判断であって、政治家にしか判断できない」(p.5)と書いてあるが、現在ではこのような問題については、政治家が裁量的に判断するのではなく、テイラールールのような一定のルールにもとづいて金利で調節するのが、世界の中央銀行のコンセンサスである(彼女は他の部分でテイラールールという言葉を使っているが誤解している)。

「デフレから今すぐ脱却するための方法」(p.7)と題して提案されているアコード(政策合意)の「1.来年度以降のGDPデフレーターの上昇率1-3%の範囲に収める(インフレーションターゲット型)」というのは、リフレ派が久々に墓場からよみがえったようだ。そういうターゲットは日銀がすでに設定しており、問題はインフレをどうやって起こすかだ。毎日新聞の記事によれば、彼女はそれを国債の日銀引き受けでやれと主張したようだが、ゼロ金利状態でいくら通貨を供給してもインフレが起こらないことは、ここ1年の世界経済で実証ずみだ(彼女か亀井静香氏が首相になれば起こるかもしれないが)。

「5.1ドル=120円の時限的な固定相場制の導入を目指し、各政策、各政府部門および日銀等の特殊法人のシステムを改編する。(固定相場制型)」に至っては言語道断というしかない。幸い菅氏は納得しなかったようだが、こんな間違いだらけの経済政策を政府に提案するのは、笑ってはすまされない。「勝間バブル」も、いい加減につぶしたほうがいいのではないか。